小咄 | ナノ

「おじゃましま、す」

「そんな緊張しないしない!あはは」

ゼロアはいつもの綺麗な笑みで私を部屋に迎え入れた。今日の放課後、数学の宿題で解らないところがある、とプラットと話していた際、ゼロアに僕が教えてあげるよ、となんとも爽やかな笑顔で言われた。頭の中が沸騰して、一瞬何を言われたか分からなくなった。プラットに腕を引っ張られ、ぜっ、是非!なんて裏声った声で返事をしてしまった。なんとも恥ずかしい。

そしてさらに恥ずかしい事に、なんとゼロアの部屋で勉強会を開くことになった。大丈夫だよ、安心して、何もしないから、なんて微笑みながら言われた時は複雑な気持ちになった。

全寮制のこの高校は、組ごと部屋が固まって振り分けられておりゼロアの部屋と私の部屋の距離は実質数メートルぐらいだ。そんなに近いのに私はゼロアの部屋に一度も行ったことが無かった。そりゃやっぱり、男の子と女の子だし?自分の部屋に女の子を呼ぶのは気は引けるんだろうけど。まあ、某赤色は勝手に私の部屋に侵入してくるし、この前ソーニャがミックに拉致られてるの目撃したのはおいといて、ね。

「そこら辺適当に座ってて、今飲み物持ってくるから」

「い、いや、お構いなく」

ゼロアはくすくすと小さく笑って部屋から出て行った。絶対今私顔真っ赤だ。だからゼロアくすくす笑ってたんだ。そんなことを思うとじんわり手に汗が滲み出てくる。勉強会だっていうのに(ちょこっと)お洒落してきた自分は本当に勉強する気があるのだろうか。分かんない。でもゼロアを目の前にするだけで少し眩暈がするし、ゼロアの声を聞くだけで、体がカッと熱くなってとろけてしまいそう。



「お待たせ、えっとオレンジジュースでよかったかな?」

「うん、全然」

徐々に落ち着いてきた私はオレンジジュース(なんだか可愛いと思った)をこくこく飲みながらちらりと部屋を見渡した。本当に綺麗な部屋で、シミやチリひとつ無い。本は背表紙をこちらに向け棚にぎっしり並べられて、シワが無い制服は壁にかけられていた。ただ気になるのはネジやドライバーが、とある場所で散乱しており、食べかけの饅頭がそのネジの海に放り込まれている事だった。

「あれ何?」

「え?ああ…ふふっ。あれはプラットとオーラルが遊びに来た残骸だよ。あ、残骸って言ったらあの2人怒るかも」

「へえ…」

「片付けようかなって思ったんだけど、今日の夜2人遊びに来るらしくてさ。もうそのままでいいっか、みたいな」

やっぱりゼロアとオっさんとそしてプラットは仲がいいんだなあ。当たり前か、高校にくる前からずっと暮らしてたようだし。プラットが羨ましく思って、私は唇を尖らせるとゼロアは子犬のように首を傾げた。

「じゃあ勉強しよっか!リンダちゃんどこが解んないの?」

「うん、あのね…この問題と…あとここの方程式がね…」




ゼロアの説明はとても理解しやすく、謎まみれの数学の宿題はあっという間に終わった。本当にゼロアはよく勉強しているなあなんて思った。そういえばプラットが言っていた。「あたしの尊敬する人はゼロアさんっす」と。プラットが言うにはゼロアやオっさんの製作者ベクターさんは最低限必要な能力のみを組み込み、他は一切手を加えて無いという。だからゼロアが頭良いのはひとえに彼の努力故の結果だった。(オっさんと比べれば一目瞭然)

「ちょっと休憩する?」

「ゼロアは私にお構いなく休憩してて!あとちょっとでこの問題解けそうなの」

オレンジジュースを一口ごくりと飲み、喉を潤すと数式とのにらめっこを続行した。ほんとにあとちょっとで解りそうなの。

「………」

「………」

「……あの」

下を向いたまま尋ねる。

「何リンダちゃん?」

「…いや、なんでもない」

「そう?」

本当はなんでもよくない。問題と格闘している間ゼロアがじっとこっちを見ているような気がしてならない。蒼い瞳が私の動作を捉えている。私の思い違い、気のせいだ、と思いぱっと顔を上げるとそこにはにこやかに笑みを浮かべたゼロアの顔。

「ゼロアさん…あんまり見ないで欲しいな。恥ずかしいから」

「んー…どうしよっかな」

「え」

「僕誰かが努力してる姿見るの好きなんだ、だからいいかな?リンダちゃんのこと見てて」

ゼロアは頬杖をついたままふわっと笑った。ああもう、あなたの笑顔に完敗。



(その笑顔は反則だから)


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ゼロアのたくさんの笑顔が書きたかった←

BGM:ガラナ/スキマスイッチ
お題元:確かに恋だった