小咄 | ナノ

(ハロー、トゥルーマインド)

突然だが僕は体育が嫌いだ。

…何故わざわざ体を動かす必要があるのだろうか。薬草を必要とする時結構な距離を歩いたり、浴場でばた足したりしているから運動はしているつもりだ。運動を普段していない奴だけ体育をするべきだ。
僕は草をむしり空へ投げた。指先から土屑と千切れた草がパラパラと落ちる。隣ではソーニャが口をぽっかり開けて空を漂う雲を眺めている。太陽の柔らかな光が降り注ぐグラウンドではゼロアとガスパロが談笑している。なんでもないいつも通りの光景だったがたったひとつだけが僕を不機嫌にさせた。キイキイと猿みたく叫びテンションが高いどこのクラスかも分からない女子達。ほんとに煩い。彼女らの目線の先には青髪の彼がいた。ゼロアがガスパロの発言にくすりと笑うと黄色い声が上がった。何故ゼロアに人気があるのか分からない。あの爽やかドエスに腹部を蹴られたいのか。あんた達ドエムか。プラス極とマイナス極みたくドエスとドエムは互いに引きつけあうのかそうなのか。僕は再び雑草を引き抜き女子集団に向かって投げつけた。勿論千切れた雑草は女子達に当たることはなくどうやら僕のこのやり場のない気持ちは雑草でしか繕えないようだ。ぶちり。またむしる。ぶちり。それに気づいたソーニャは僕の手をまじまじ見ながら「手切れるから危ないよ」とぼそりと呟いた。僕は指を拭うことなくジャージのポケットに突っ込み頬を膨らませた。
ソーニャは待ってましたとばかりに僕の頬をつつきだらしなく笑う。僕はソーニャの人差し指を握りしめ目線を上げた。と同時にノノが彼らの話に加わるのが視界に入る。上機嫌なのかいつもより辺りに飛び散る花が多いような気がする。女子達はノノの姿を見て乙女らしく頬を染めたようにみえる。くそっ。ちらちらちらちらとノノを見る幾つもの目玉を指でつきたくなる。僕はすっくと立ち上がり何気ないふりを装いながらノノに近づいた。尻を揉んできたガスパロに回し蹴りを食らわす。

「ノノのデフォの紙袋はどしたの」

「あれはちゃんと私の部屋に飾ってありますよ」

「今すぐ被って」

「え〜?」

「ていうか被れ」

ノノはまばたきを数回した後どうしたんだと言わんばかりに小首を傾げた。くりくりした両の瞳が私の気持ちを探るように動く。

「エマさん」

「なに」

「私たちにはもう紙袋も仮面もさして必要はないと思うのです。それに体育は体を動かしますから紙袋を被っていたら息苦しくなりますしね!」

ノノが屈託のない顔で清々しいくらいに笑い飛ばすもんだから僕は下唇を噛んでガスパロの足を思いきり踏んだ。

だから体育は嫌いなんだ。

(ハロー、トゥルーマインド)



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よく分からなかったらそのままでいいです…あの…ちょっと説明しますと…体育の時に紙袋被ってたら暑い→取る→ノノの顔見える→可愛い顔→女子が反応→エマイライラ→体育嫌いということです。最初に運動がどうたら言ってますがそれは二の次です。

お題:箱庭