「寒い」
「さ、さむ…」
「この頃天気がころころ変わりやすくて嫌ですわ」
エマはジッパーが引っかかりながらも首まで上げ、顔をうずめた。エマの耳はほんのり赤く染まり、襟の隙間から白い息をふーっと吐き出す。いかにも冬の到来を告げる光景ではあるが世間はまだまだ秋真っ盛りである。エマはわざわざ紅葉を踏みながら歩を進めた。
「ソーニャー!!寒いですわー!!体育したくないですわー!!わー!!」
「げふぉっ」
エマの後ろを小股でついて行くソーニャとアンジェリカ。滅法寒がりのアンジェリカはきゃんきゃん叫ぶとソーニャに抱きつくという名の突進をした。ソーニャは前のめりになりながらもアンジェリカを背中で受け止める。アンジェリカはソーニャにぴたりとくっつきながら再び歩き始めた。そのため歩幅は乱れ足元の落ち葉は騒ぎ立てた。
「アンちゃん重い…」
「なんですって?体重が重いですって?」
「ちちち違うよ!!エマちゃん助けてー!!」
ソーニャはエマに背後から助けを求めるように抱きついた。しかしエマは少し前のめりになるだけで、相変わらずの無表情で後ろに振り返った。アンジェリカの重圧でぎゅむうと潰されるソーニャ。端から見たらエマとアンジェリカの間に黄緑色のもさもさがはみ出ているような、そんな奇怪な光景が校舎とグラウンドの間の小道に広がっていた。
「ふっふごふごふっご」
「ソーニャなに?」
「『早く行こうエマちゃん!』ですって」
「ふごふごーっ!!」
ちがーう!!と叫んだつもりのソーニャだったが確信犯アンジェリカの仕業によりソーニャは押しつぶされたままグラウンドまで向かうことになった。
串団子のような状態でグラウンドにたどり着いたエマ一行であったが未だにぐるぐると歩き続けていた。
「ふごーふごー」
「まだグラウンドにつきませんわ」
「ふごー!?ふごふご」
「ふごふご煩いですわ。まだグラウンド着いてませんわ、ねえエマ?」
「着いてない」
アンジェリカは「あー寒いですわ」となんともなく呟きエマのお腹に腕を回し歩を進める。エマは明後日の方向を向いたまま脚を動かす。ソーニャはというと言うまでもないだろう。
「いいなあ…僕あの間に挟まりたい。ていうかおっぱいに挟まれたい」
ガスパロは顔をにやにやさせながら動く串団子を遠くから眺めていた。ガスパロを挟んで右側にミック。左側にトラヴィスが突っ立っていたが、ミックは体を縮こまらせ肩を震わしながら息を吐き出す。トラヴィスはというとどうやったら寒さをしのげるか懸命に考え、眉間にシワをぎゅっと集めていた。
「あれ?ノノ君は」
「あそこ」
ミックが顎で指し示した先には串団子に加わるノノの姿。エマを前から包み込むように抱きしめているノノの姿。あまりにもナチュラルすぎてガスパロは暫くきょろきょろした後にハッと気がついた。
「ノノくううううううううううぅん!」
ガスパロは発狂するかのごとく叫ぶと串団子プラスアルファに向かって全速力で走りだした。ミックはぱち…ぱち…とまばたきをしてトラヴィスと顔を見合わせた。トラヴィスはうさぎの耳を耳当てにするという画期的な方法を実践しており、ミックは些か羨ましそうな表情を浮かべた。
「行くか」
「ん」
ミックとトラヴィスは肩を並べ、のそのそと歩き始めた。
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