小咄 | ナノ

「エマ、どしたの」

がやがやと賑わう食堂。リンダとエマの会話に耳を傾ける生徒は誰一人としていない。皆己の空腹で脳内がいっぱいなのだ。エマはリンダの目の前に座り、無言でテーブルの上に小瓶を置いた。手のひらに収まるほどのそれは透明な液体を揺らめかせていた。リンダは箸をとめエマと小瓶をちらちらと交互に見つめた。エマはというとリンダの顔を穴があくほど見つめ返している。

「これあげる。一週間かけて作った」

「うん?」

「これあれば大丈夫」

「何が何が」

「ガスパロに襲われそうになったらこれを飲ませれば大丈夫」

「まじでー?毒とか?」

エマは薄ら笑いを浮かべ席を立った。リンダはぽつねんと残された小瓶を手にとり光に透かした。砂粒ほどの─仮に飲み込んだとしても分からないほどの─小さな星形の粒が液体中で舞い踊っていた。まさか毒薬を作るわけ、とそこまで考えてリンダは思考をやめた。エマの部屋はグロテスクな物が溢れかえっている。毒が一つや二つ混じっていてもおかしくないほど奇怪な雰囲気を醸し出しているのだ。しかし「備えあれば憂いなし」。リンダはとりあえずその毒薬(仮)を持ち帰ることにした。