小咄 | ナノ

あいつ…ソーニャが幸せそうな顔をしてるとこっちまで嬉しくなる。

教室で無くした消しゴムが見つかってにこにこしてたり、購買で売り切れ続出の滅茶苦茶旨いメロンパンが買えた時のソーニャの笑顔といったらどんな言葉をもっても形容し難い。

いつもソーニャは俺の近くにいる。いや、俺があいつに歩み寄ってんだ、いつの間にか。それで、傍にいるのに俺はなかなか優しく声をかけられない。口から出てくるのは罵り言葉。素直になるのがこんなにも難しいなんて。虫の前だったら素直に自分の感情をぶつけられるのに。湧き上がる恋心をあいつにぶつけられなくて、俺はもどかしくて、もどかしくて、そんな自分にイライラして今日もあいつに酷い事を言ってしまった。まったくもって自己嫌悪。





校舎裏庭。昼時、じめついている裏庭に近づく生徒はおらず俺はこの時を狙って裏庭へ侵入した。気晴らしに天道虫や紋白蝶の観察をするのは楽しい。ルビーのように艶々と輝く丸みを帯びた甲冑。白く毛羽立つ小さな羽。はためかせるたびに黄金色の鱗粉が粉雪のように舞い散る。ああもうなんとも美しい。にやつく顔を抑えながら観察場に向かった。

「…?」

糞ボロボロのベンチに腰掛けている生徒2人。ソーニャとトラヴィス。ざわざわと鳥肌が立った。途端にどくんどくんと高なる鼓動。

「うぇぇぇぇーっ!!?ほっほんとに!?またまたトラ君冗談でしょーあはは」

ソーニャはまた幸せそうな顔をしていた。嬉しい筈なのに俺は眉間にぎゅっとシワを寄せる。ソーニャの隣にトラヴィスがいる。俺の最も居心地の良い場所はいとも簡単に親友に盗られてしまった。トラは含み笑いをし、ソーニャを見つめている。ソーニャの笑顔をトラは独り占めにしていた。悔しい羨ましい。トラに嫉妬する自分がいて、下唇を強く噛んだ。こんなにも自分を憎んだのは久方ぶりで、確か、激レアなカブトムシを逃がしたぶりに悔しい。

笑顔は俺にだけ向けてくれればいい。俺はあいつに罵ってばかりいるのに、それは自分のエゴだと分かっているのに、生憎俺は自分の欲求を抑えられない。

俺のために微笑んでくれないなら…いっそ泣き顔を見たくなってきた。例えるとサラダにいつも胡麻ドレッシングをかけていて、たまに和風風味のドレッシングを試したくなるような、そんな感じだ。うん、分かりにくいな。

ソーニャの泣き顔ソーニャの泣き顔ソーニャの泣き顔ソーニャの泣き顔。

あああ、我慢できない。欲求不満。

はやく泣き顔早くソーニャの泣き顔が見たい。

どうやったら泣く?縄で縛り上げて夜中の森に放置するか。いやいや普通に頬を思いっきり叩くか。髪を引っ張るのはいつもしてるしな。

俺はサディスティックな妄想をしていたがソーニャの笑い声で現実に引き戻された。俺は背中を壁にぴたりとつけ息を殺した。そして聞き耳を立てる。ソーニャとトラの声が鮮明に聞こえてきた。

「…そんなに好きな、……の…か…?」

「…うへへ…だから、ミっくんに大嫌いって言われたらわんわん泣いちゃうよ」


あいつに大嫌いって言えるか。

ぜってぇ言えねえ。言えるはずない。

俺は午後の授業ずっと頭を抱え悩み続けていた。後から聞いた話今日の授業は期末考査に直接関係する重要な授業だったらしいが、んなことより俺は自分の欲求処理の仕方について延々と考え続ける方が何百倍も重要なのだった。


(ナンセンスと呼びたいかい?勝手にするがいい)


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ミックおまえ…。

お題元:確かに恋だった