あれ、雨ってこんなに冷たかったっけ。そっか、僕自身が冷たいからさらに冷たく感じちゃうんだ。なんで僕の体こんなに冷たいんだっけ。基礎体温高いのにな。ああなんか脳味噌使うと全身がビリビリしてきて気怠い。考えるのやめた。
ザアザアザア。雨が針のように体に突き刺さる。僕の隣でシャロンが身悶えしていた。もう2人とも虫の息だ。
このまま死んでもいいかななんてうっすら思えば視界に赤や青の火花が散り始めた。体がじわりと麻痺し始めた。なんかふわふわしてきた。
「…大臣、停めてください」
ソプラノの綺麗な声が何処からかぽつりぽつりと降ってきた。天使の声だ。よかった、僕、天国に行けた。
姿が確認できないが天使は一歩一歩僕たちに近づいてきた。えらく慌てた男の声が天使の背後から聞こえる。
「姫、濡れてしまいます、それにそんな小汚い猫放っておきましょう」
「…今なんと言ったかもう一度言ってみなさい」
「…失礼致しました」
僕とシャロンは何かにふわりとくるまれた。多分シルクとか、そんなのだと思う。触ったことすらないけどね。徐々にあったかくなってきて、耳を澄ませばとくんとくんっと小さな鼓動を感じた。天使の鼓動なんて滅多にきけない。ラッキーだったな。あ、でも死んじゃったからラッキーもなにもないか。
「ひ、姫!お止めくださ」
「お黙りなさい!!」
僕は驚いて一瞬目を見開いた。力を振り絞って顔を上げると綿飴のようにふわふわきらきらした水色の髪をした女の子が鬼のような形相で男を睨みつけていた。
「私のドレスなんてどうでもいいのです。それよりこの子猫たちを」
どうやら天使じゃないらしい。羽が生えてないし、天使はこんなけたたましく叫ばない。
「もう大丈夫よ、安心して」
柔らかい声とともに僕は頭を優しく撫でられた。微笑んだ彼女が眩しかった。
彼女は僕達にとって天使ではなく、女神だったようです。
***
「ヴェルー」
「はい」
教室で宿題をしていると肩を軽く叩かれた。振り向かなくてもわかる。
「お腹すきましたわ…食堂でパン買ってきてくださらない?お願いしますわ」
「アンさん…自分で行ってくださいよ」
「けちー!けちヴェルけちヴェルー!!」
「あーもう、はいはい」
そう言って僕は椅子から立ち上がる。なんて人使いが荒いお姫様なんだ。だけど、昔から変わってない。そこが彼女のいいところ。
「行ってきます」
「行ってらっしゃいヴェル」
神様聞いてください、女神は今日も僕をぱしります、なんてね。
(神様神様、聞こえますか)
----- 地味に暗い。
BGM:勿忘草/ピコ
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