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夢うつつのあなた



よし、と中身を確認してからしっかりとエコバッグを肩にかけ直し、ぎゅっと握った。
好きなものを聞いたら酒。とだけ返され、確かに以前も鬼嫁なるものを飲んでいたと思い当たり、わざわざ酒造元から卸してきた。
ここまでするか普通。と言われそうだからこのことは秘密にしておこう。これも惚れた弱みというもの。

じゃーんとはっぴーばーすでーを歌いながら酒を出す女ってどうなんだろう。
「これは…鬼嫁!」
「注ぎたてです」
どうぞとお猪口に注いで本日の主役である彼に手渡した。
沖田君はくいっと傾けると、綺麗な喉仏が上下し、なんだか色っぽくてそれをじっと見つめてしまった。
沖田君は顔を45度程上げたまま、綺麗な朱色の瞳だけこちらを見下ろしてきたので、ぱちりと視線が交差した。あ、見すぎたかな。と思いふいと逸らして、エコバッグからもう1つのサプライズプレゼントを出す。
本日の主役と書かれた襷と、モールで飾り付けられた安っぽい三角帽子と、髭付き眼鏡だ。今日はパーティーだから豪勢にいこうと張り切ってしまった。

「あれだな、主役よりはしゃいでる幹事のそれ」
「沖田君に似合うかなって」
嫌だったかなと不安になり眉を下げると、沖田君はいそいそと、その全てを私に装着した。
なんでそうなる?
「これは沖田君へのプレゼントだよ?」
「俺ァ酒が飲めればそれでいい」
そう言うと、はいピースの掛け声と共に私はピースサインをして笑顔でカメラに目を向けた。
「いやなんでやねん!」
ばしっと髭付き眼鏡をとって卓袱台に置いた。
「一緒に撮ってよ!!!」
「そこ?」
私は大仰に頷いた。せっかくの沖田君の誕生日に記念写真が無いなんて、全私が泣く。

「3回まわってわんて言うか、土方殺ってくるか選べ」
そんなのわんって言う方に決まってるだろ!沖田君は二択に見せかけた一択の条件を提示してきた。
「やったらハート一緒に作ってチェキで撮ってよね!」
私はまたまたバッグからインスタントカメラを取り出した。用意周到だなと沖田君は真ん丸なおめめをさらに丸くしていた。

私は勇みながら座ったまま、沖田君の目の前でくるくると3回まわった。わんと照れながら沖田君に向けて言えば、無表情で顎下をうりうりと撫でられた。わ、悪くねえ…。
ご褒美をもらう犬の気持ちがわかった気がする。

「よし、撮るよ!はいポーズ!」
赤面した顔を誤魔化すようにカメラを片手に持ち、沖田君の横に並びハートの片割れをもう片方の手で作った。沖田君もしっかり作ってくれてうし、と内心ガッツポーズで撮った。
うぃーんと現像された写真を見て、私は目を見開いた。
「なんでやねん!」
またまた卓袱台に写真を叩いた。
しっかりハートの形になっていたはずが、沖田君はいつの間にかピースしている。それも真顔で。満面の笑みでハートの片割れを作る女がそこにいた。ていうか私だった。

「もう1回撮ろ!」
すりと肩を寄せれば、沖田君はこちらに顔を向けてにっこり笑った。
「土方殺るか土方消すかどっちか選べ」
仕方ない…土方さんには消えてもらうか…。て、「そんなことできるか!」
私は沖田君の肩をがくんがくん揺すった。可愛い顔してなんて残酷なの。全然撮る気ないじゃん。仕方なく私は諦めた。この虚しげな写真を私の墓場まで持っていこうと。

沖田君はまあ飲めやとお猪口をこちらに向けてきた。誰のせいでこんなに落ち込んでいると思っているのだろう。それに私は飲めませんて。知ってるくせに。私はいらないと首を横に振った。
あっそと言うと、沖田君はお猪口をそのまま自分の口に含んだ。かと思えば、顎を掴まれ無理やり沖田君の方を向かされた。何をするのかと考える隙もなく、唇が触れて、油断した隙間から日本酒を流し込まれた。生あたたかい日本酒が流れてきて、独特の風味が鼻を抜ける。

「んなっ…」
なにをするのかと顔を離して沖田君の目を見れば、すっかり潤んでいて、もう酔ってしまったのかとあわあわする。
「沖田君…?」
気は確かなのかと名を呼べば、かぷりとまた唇を食まれ、ちうと吸われた。すっかり思考は溶けきっているようだ。そのまま優しい口付けが続き、ぬるりと舌が侵入してきた。悩ましげな皺が眉間に寄っており、つい見惚れていれば、朱色が覗く。疚しさから視線を逸らせばソフトタッチで腰をなぞられ、背筋がびくびくと反っていく。わざと私の弱い所を…と恨めしげな視線を向ければ、嬉しそうに目を細めてまた閉じられた。
もう、本当に掌の上で転がされている気しかしない。飴と鞭を使い分けられてこうして絆されてしまうのも、寧ろ楽しんでいる自分がいる。






tytle by 天文学


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