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褒め言葉



「名前ってひとりで生きられそーだよね」
そんな断り文句で私の12年の初恋は儚く散った。
昔から呪いや虫は平気で祓っていたし、男子よりも男勝りではあった。
幼馴染は、私をそういう対象として見れないらしく、ニットのセーターを着たふわふわしたいかにも女子!な子と街中で歩いていたから、ああいうのがタイプなのだろう。幸せそうな2人が眩しすぎて思わず目を逸らした。あぁ、世の中はアンフェアだと呪った。

私だってずっと強いわけではない。うさぎもビックリの寂しがり屋だ。幼馴染とは家も近く顔を合わせる度憂鬱になるので逃げるように呪術の高専に入った。

そこで出会った3つ上の先輩は、私の初恋の人とは正反対であった。
まず第一印象から肉食系ぽいし、常に鍛えていて線は細いのにガタイはめちゃよく、身長も180cmをゆうに超えているほど大きかった。呪力も術式もそれはそれは強かった。最上級の特級なのだ。とても圧を感じた。
私だって小さい頃から祓っていたし呪力には自信もあったのに呪術界では3級と定められ、井の中の蛙だったと思い知った。

組み手の授業では投げ倒されてばかりで、弱い、本当に鍛えてる?これじゃ独り立ちは到底無理だねなどなど、サングラス越しに幼馴染とは反対のことを言った。
一般的には貶されている部類に入る言葉を浴びたらいつも言い返していたのに、不思議と安堵した。
痼となって残っていた幼馴染の言葉を一気に吹き飛ばしてくれた五条先輩には感謝している。
自信たっぷりで傲慢、なのに優しさが見え隠れする裏表のない人に出会うのは初めてだった。
気づいたら目で追っていたし、組手のペアになる度緊張するけど五条先輩じゃなきゃ嫌だった。幼馴染なんかどうでもよくなるほど、好きになっていた。
特級の五条先輩は、任務で全国、いや、全世界をまわっており、会える機会は限られていた。
来年で卒業してしまうし、そうしたらもっと会えなくなるだろう。
そんなのは嫌だったから、任務に無理矢理ついて行ったり、一緒にご飯を食べたり部屋でみんなと遊んだり、できる限りを過ごした。
今日も先輩の部屋で桃鉄をやっている途中、私と五条先輩の一騎打ちになり、お互い1歩も譲らず、何時間もやり込んでいたら周りのみんなはすっかり寝てしまった。

「あ、水ねーじゃん」

冷蔵庫を開けて盛大な舌打ちをした五条先輩は、じとっと私を見下ろした。
買ってこいということだろうか。
確か五条先輩は2Lのがいいんだよね。自販機にないからコンビニに行くしかない事にイラついたのだろう。

「買ってきましょうか」
「危ねぇから一緒にいく」

私は内心ガッツポーズで、それを悟られないよう顔はすまして立ち上がった。まさか着いてきてくれるなんて、五条先輩と2人っきりで話せるし願ったり叶ったりだ。
学校に続く長い坂の下にあるコンビニに、ゆるゆると向かう。五条先輩の足は長いのでいつも小走りなのだが、今日はなんだかゆったりだった。

「もうすぐ夏か」

暑そうにぱたぱたとUネックの首元が広く開いた襟元をはたいており、五条先輩を見上げた私はそこからみえる綺麗な鎖骨に釘付けになった。いかん。いかん。

「もう6月ですもんね。はやいなー」
動揺が出ないようになるべく声のトーンに細心の注意をはらった。

「学校慣れた?」
「はい。楽しいです」
五条先輩がいるので、とは言わず。
「なんか息詰まったらさあ、誰か頼れよ。俺でもいいし。」
いつもの意地悪な先輩らしくない言葉に私は首を傾げた。先生みたいなこと言うんだなあと思いながら一応はいと答えたが、五条先輩は私なんか見ておらず、ずっと遠くをみていた。なんだか意味ありげだ。
能天気な脳は私に向けられている言葉と仮定して、これが心配される女の子の気持ちかーなんて浴びたことのない言葉をしみじみと噛み締めた。

「ひとりで生きられそーって初恋の人に言われてショックだったから、五条先輩の目にはそう映ってないみたいで逆に安心します。」

えへと冗談めかして笑って五条先輩に目を向ければ、サングラスをずらして少し目を見開いており、何か変なことを言ってしまったかとぎくりとした。
しかしすぐにすんと真顔になって、だっておめーよえーし。と、ごもっともな言葉にそうですよねと気が抜けて笑ってしまった。

「女も男も、ひとりじゃしんどいときあるよな」

呪術師なんて死ぬ時も独りだし。とぽつりと零した言葉に自嘲気味に笑い、月に反射したキラキラとした白い髪が目元を影で覆った。
声はいつもの軽さなのに、俯いた表情は見えなくなってしまった。最強と言われている先輩のこんな姿は初めて見た。
最初は私への同情かと軽く聞いていたが、察するにもっと深い意味が込められていそうだ。
私にはわからない世界を見てきた先輩は、その分沢山考えることも多いのだろう。
こんなに近くにいるのに実際はすごい遠くの人だと思い知る。

「私では心許ないですが頼ってくださいねっ」
なんて、考えていたことは見透かされないように能天気なふりをして、横に1歩五条先輩に近づいたら、強くなったらなーと頭を撫でられた。
うお、撫でられちった。テキトーに躱されたが、驚きの方が大きく、大きな手でわしゃわしゃされ、でれでれにやにやしてしまう。
ばれないように口元を両手で覆った。

「アイスくう?」

コンビニに入り、お目当ての水を手に五条先輩についていくとそう聞かれたので、満面の笑みでイェスと答えた。甘いもの好きなんだなあと買い物カゴを見て察する。沢山のお菓子が入っていた。

コンビニを出ると、ん、とぱぴこの片割れを渡された。
わあ、五条先輩とシェアだ。むふふとなりながら有難くそれを受け取った。少し、五条先輩が近くに感じられて、ぱぴこをぎゅっと握りしめた。

1口吸えば、甘さと冷たさが口に広がる。美味しいなあ。ちらりと横目で五条先輩をみれば、上下にぷらぷらとぱぴこを弄んでおり、こんなにもぱぴこになりたいと願った日はない。
あまりにも見すぎて五条先輩とばちりと目が合った。じっと私を見つめたままぱぴこを食べており穴があきそうな程見てくる。呪力だけでなく思考も透き通ってしまいそうな視線に搦め取られ、離せなくなっていた。
しばらく見つめあっていたが、にこりと五条先輩が口角を上げて言った。

「恋の6秒ルール」

恋の…?と私はオウム返しで訊ねたが、五条先輩はただの呪いさとご機嫌な様子で、それが何かは教えてくれなかった。



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