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すきっていってよ

すきっていってよ


寒かった日も終わり、なかなか過ごしやすい季節になってきた。桜なんかも舞ってたりして春色の景色に穏やかな心持ちになる。
散歩にでもいくかなんて誘ってくれた総悟くんも同じこと考えてたのかな。私は二つ返事でついていくことにした。
袴姿のかっこよさにどきどきしながら隣に立ち、手と手が触れ合いそうな距離を保ちながら歩く。私が手を絡めようとすると、すっと腕を上げて伸びをする総悟くん。タイミング…と思い、手を引っ込めて腰の後ろで組んだ。
これは強がりだ。ほんとうは手をつなぎたいのに、総悟くんに気付かれるのはなんだか癪だから。
総悟くんはそのまま首に両手を組みながら歩いており、手をつなごうとしてくれる気配もない。もう私の気持ちには気付いていてわざと知らんぷりしてるのかなあ。

私たちは付き合って2ヶ月くらいになるが、進展はあまりない。手を繋ぐのなんて昨日の帰りにひさーーーしぶりにしてくれただけで、気まぐれだったのかな…なんて。

ちらりと横目で総悟くんを見るが眠そうで目じりに薄ら涙が溜まっている。能天気…。
私たち本当に付き合ってるでいいのだろうか。

最近つくづく思うのは、安定したものがいいということ。
安定した収入、安定した体調、安定した…彼氏。
ドキドキハラハラするような恋愛も良いのかもしれないけれど、私は安定というか安心するような彼氏がほしい。
私が沖田さんを好きになってしまったから、そんな傲慢なことは言い出せない。でも、せめて、好きって言ったらありがとよじゃなくて、俺も好きだぜって言って欲しいのだ。あしらうのではなく、真剣に、同じ温度で。
甘々に甘やかされたいわけでもないんだよあなんて考えながら並んだ影を見つめる。

前の彼氏にdvさらてそのさらに前の彼氏は釣った魚に餌をやらないタイプでほったらかされたのに、どちらにも延々と尽くしてしまったのはいわゆる沼だった。
それに比べて総悟くんは自立しててお役所勤めだし、dvで雨の中外に追い出された私にたまたまでくわして拾ってくれたし根は優しいはずだ。だから余計総悟くんに求めてしまうのかな安定した愛情を。

はぁ…好きなのは私だけだったりして。例えば私の宇宙よりも果てしなく好きな度合いとは違い、総悟君は爪の白いところ1o程度の好きだったら?そう考えたら切なくて苦しくなって見ていた爪をぎゅっと握った。

私がきちんと言えばいいのにいざとなるとから回って上手く伝えられない。
こんなに総悟君のことばかり考えてて私だけ好きだったらなんだか悔しいし…。
たとえありがとうなんて言われても、口を尖らせたりする態度はみせないように、気にしてないフリしちゃってさ。

「団子食いてえな」
「…!私も食べたい!みたらし団子が好き!食べたい!」

考えていることは見透かされないように、なるべく声のトーンを明るく意識して応えた。


「総悟くんは?総悟くんは何のお団子が好き?」
「んー」

と考えて黙ってしまった。めっちゃ興味無さそうやん…。
団子でもいいからあれ好きとかこれ好きも言わないなんて。

お団子屋さんに着くと各々買って休憩スペースに座る。私は無料で貸し出されているブランケットを手に取りひざにかけたて総悟くんにじりっと詰め寄った。
「小さい頃から使ってる好きなタオルとか、寝る時のブランケットって、くたくたなのになかなか捨てられないよねえ〜」

なんてお団子をもぐもぐしながら、ブランケットで思い出したあるあるを総悟くんに投げかけてみる。

「俺の菊一文字rx7みてぇな?」
「んー?それは無くなったらまずいもんね。そうじゃなくて、あってもなくても良いけど自分は持っていたくて、使い物になるかならないかぐらいの思い入れが強い物とかかなあ」
「なんでそんなの使ってんの」
「え、だから、使い慣れてるとなんだか心もあったまるしぃ。ほら、新しいのは落ち着かないというか…」
「そんなんねぇな」

一蹴りされてしまい、そっかあとお茶をすする。
そんな冷たくしなくても、ブランケットみたいに温めて欲しいよまったく。

日も落ちてきて、あっという間に夕暮れ時になり、私たちの秘密基地(私が思ってるだけだが)、江戸を見渡せる丘にやってきた。
夕日も相まって、桜と飛行船やらが飛び交うのもなんと情緒的なのだろう。
風が吹き隣に立つ総悟くんの髪が揺れる。ぼーっと前を向いたままの彼の横顔はなんとも綺麗だった。

「総悟くん」
「ん?」
「すきだよ」

丘に向けていた視線を総悟くんに向ける。
総悟くんは赤くなるでも驚くでもなく、いつものポーカーフェイスで、どーもと返すだけだった。


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