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リトマスの花は雷雨に溶ける



私はケーキが好き。
それはケーキ屋の娘だったからというのもある。
小さい頃からショーケースに並んだケーキを眺めるのが好きで、その可愛さにとても癒されていたから。
だから私がケーキを好きなのもケーキ屋の娘なのも彼と出会えたのも運命なのかもしれない。

「今日は誰にあげるんですか?」
「んー」

そう、この沖田総悟に。

彼は私のケーキ屋の常連で、よくママと話していた。裏からこっそり覗いていた私は、沖田さんの話してる時のはにかむ顔とか優しい顔に癒されていた。
だからきっと一目惚れ。

お店の手伝いをできるようになって、やっと話せるようになって、世間話とかしているうちに、真選組でどんなことやってるとか掻い摘んでだけれど知るこもできた。
いつのまにか、沖田さんと話している時間がケーキを眺める時間より好きになっていた。

でも未だに恋バナとかできなくて。どんな人がタイプなのかとか全然わからなくて、謎も多い。

「ショートケーキと…モンブランと…」

ショートケーキ、モンブラン…。
いつも思うけど沖田さんのケーキのセレクトが可愛い。誰にあげるか答えてくれなかったけど。
そう思いながら言われた通りの品をとっていく。

「あ」
「はい?」

彼は声を上げると私の顔をじーっとみつめた。
まだ欲しいケーキでもあったのかな。

「太った?」

フトッタ?フトッタなんてケーキうちにあったっけ?いやない。これは体型的な意味のフトッタだ。
私は瞬きひとつしてキッと睨んだ。

「失礼な!まだ標準体重です!」

さっきまで沖田さんを可愛いなんて思った自分を殴りたい気分だ。
当の本人はあっれ?おかしいななんてとぼけてて、悪びれる様子もない。
ていうか年頃の娘に訊く言葉なんですか。
私は沖田さんのこと好きなのに。最近の沖田さんはこんな風に意地悪言って、おもちゃのように私の反応を見て楽しんでいる。気がする。

ちらりと店の雰囲気に合うように壁にとりつけてある鏡をみやる。
…あ、太ったかも。
確かに、思い返してみれば、廃棄になったケーキたちを喜んで食べてたけど、量はどれくらいだったかな…。
思い浮かべたところで私は考えるのをやめた。

「あれ、いつもは金平糖サービスしてくれるのに、今日はくれねぇのか」

紙袋を受け取って中身を確認した沖田さんが不思議そうに言った。
そんなの自分の胸に手を当てて聞けばわかることでしょうが。デリカシーの欠片もないこと言っておいて、金平糖までたかるなんて。

「拗ねてんのか」

私がムッとしていたからか、チワワのような可愛い顔を紙袋から私に向けてくる沖田さん。
…う。真顔でも可愛い。黙ってればなおよしなのに。

「そういうこと、女の子に言ったら傷つきますからね。特に好きな人に言われ…る…と…」

しまった。反射的に両手で口を塞ぐ。いま、口が勝手に滑った?言ったよね?言っちゃったよね?好きって言っちゃったよどうしよう。言うつもりなんてなかったのに。目がおよぐおよぐ。
恥ずかしさで顔に熱が集中しているのがわかる。
今の真っ赤な顔を沖田さんに見せたくなくて、慌ててしゃがみこんでショーケース越しに沖田さんを見上げる。
ばちと目が合うと、沖田さんはなんだか勝ち誇ったように薄ら笑ってふーんなんて言ってる。

「ま、俺も好きなやつにしか訊かねえよ」

じとり、と私を見下ろしてきた沖田さん。

え、今なんて…。

スキナヤツ、ケーキの事じゃないよね?私のことだよね??唐突なストレートな言葉を受け止められるほど私は凄腕キャッチャーではないので、心臓の鼓動が高まる。いやだって期待しちゃう。そんな事言われたら、言われたら…私。

がばっと立ち上がってショーケース上から身を乗り出す。
「私、もっと、もっと沖田さんのこと知りたい!だから常連さんとしてじゃなくて…」

満更でもない私は勇気と勢いだけで言葉を発したが、続き言わなきゃ、今しか言えないのに、緊張で、震えて、言葉が詰まる。

「んじゃ、これからはあんたの彼氏の特権っつーことで金平糖サービスしてもらうかァ。」

そういって沖田さんははい、と手のひらを私に向けた。
か、彼氏…として。

私はレジ横の金平糖が入った包に視線を向ける。握りしめていた手を徐々に緩めながらそちらに手を伸ばした。そして沖田さんの手のひらにのせようと腕を伸ばすが、包を掴む指先が震える。婚約指輪はめる時とかってこのくらい緊張するのかな。落ち着け…落ち着いてくれ自分とギュッと目を閉じる。

なんて思っていたら、包が微かにふれた瞬間、ぐいっと引っ張られた。それはそれは抵抗できないくらい強い力で。

「んっ?」

私、今沖田さんにキスされた。
触れるだけの、キス。
元々熱い顔がさらに熱をおびる。

「あ、お、きた、」
「他の男には絶対ェサービスすんなよ。」

戸惑う私をよそに、金平糖を受け取った沖田さんはすたすたと店を後にしてしまった。

しーんと静まり返った店に一人。
私は呆然としていた。
本当に、夢じゃないよね。

そっと唇に触れる。

熱い…。

ケーキよりも甘く、溶けそうなくらい熱い午後だった。








title by 白猫と珈琲


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