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少女は闇に羽ばたく(1/2)


気づいたら高校3年生になっていた。みんなは受験とか就職とか進路を決めていく年だ。一方私は多分誰か知らない人のお嫁さんになるのだと思う。お父様が決めることだから、私の未来はお父様次第だ。

放課後の誰もいない教室で日誌を書いていれば、視界の端に揺れる花びらにふと窓の外を見つめた。桜はうちの山にもたくさん咲いているし見慣れたものだが、惹き込まれてしまう魅力がある。
桜の行方を見守ると、悟も進路を決めたのだろうかと考えが浮かんだ。ほぼ呪術師になるのだろうけれど。お付き合いしてる人と婚約もするんだろうな。いいなあそういうの。普通の人。普通の幸せ。

「白雪いたんだ。居残り?」
背後から声がかかり振り返ると、蟒蛇崎君が立っていた。彼とは3年間同じクラスだったから、時々話したりする。そうは言ってもその他大勢の一人、ただのクラスメイトだ。
「日誌書いてたよ。蟒蛇崎君は忘れ物?」
「うんスパイク忘れた」
「そっか、部活頑張って」
確か彼はサッカー部だった気がする。机の横の黒いシューズケースを手に取る様をまじまじと見てしまった。いつもはあまり興味を持たないのだけれど。
「さんきゅ。」
こちらに振り返った彼と目が合い、白い歯を見せて笑う爽やかさに、眩しくて目がやられそうになる。目を細めながらなんとか会釈を返した。
「そうだ、クラス会くる?」
日誌に目を落としたら、また蟒蛇崎君の声がかかった。またまた振り向けば、入り口からひょっこり顔を覗かせていた。
「クラス会?」
なんだろう。集まりのようなものだろうか。私はクラスのことに全く興味がなさすぎるからそんなものがあることも知らなかった。
「そう、今年で高校生活最後じゃん?みんなと仲良くなりたいんだよね。もちろん白雪とも。今日来れそうだったらきてよ」
彼の人当たりの良さに断りづらくなり、あーと私は考えるふりをする。しかし答えは決まっていた。私は別にあなたと仲良くなる気はないです。いく気もないんです。という答えが。
「…行けたら行こうかな」
「じゃあ連絡して。メアド交換しよ」
「え」
赤外線わかる?と言いながら彼はこちらに近づいてきた。そんな連絡とか必要なのかな。
なんと言って断ろうかと逡巡していれば、彼はニコニコと爽やかな笑顔を向けてきて言葉に詰まる。
「今携帯…」
無いと言おうとしたら、タイミング悪く着信音が鳴った。どきりと肩が跳ねてしまい、そんなに驚かなくてもと笑われる。私は渋々ぽっけから携帯を取り出して、着信相手を恨んでやる気で折り畳まれた携帯を開けば、そんな気持ちはすっ飛んだ。
「悟!?」
それはそれは長い間思い焦がれていた大好きな人だった。悟だったら大歓迎だ。なんでも許してしまう。むしろたくさん連絡して欲しいくらい。私は素早く画面を耳に当てた。
「どうしたの?!」
『驚きすぎだろ…お前の学校どこだっけ』
「こっち来てるの?!なんなら今からそっち行くよ!」
『用があるのはお前じゃなくて学校』
「呪霊はいないよ?」
『あーもういいから場所教えろ。』
うんざりするような物言いの悟に怖気付き、仕方なく案内する。
早く会いたい。悟に会いたい。だって高1の大晦日のあとから会えていないんだもの。
手刀を切りながら、蟒蛇崎君の横を通り過ぎた。しかし彼の横を一歩踏み出したが、二歩目は叶わなかった。私は彼に腕を引かれてしまい、慣性が途切れた勢いにうぇっ?と変な声が出た。
「あ、ごめん」
「う、うん、」
慌てて彼は私の手を離したが、一体何だったんだろう。少し疑問は残ったが、私はすぐに悟へ気持ちが向き、早足で昇降口に向かった。


…みつけた。
悟の姿はなんせ目立つ。白髪に高身長では遠目でもわかる。正門前で突っ立っているのがここからでも見えた。制服学ランなんだなあ。うちの高校はブレザーだからなんだか目新しくて新鮮だった。もちろん悟に似合っているし、いつものごとくかっこいい。
「さとるっ」
ここは学校だし監視の目もないだろうと、うきうきで腕にしがみつけば、無言であしらわれた。まあ塩対応もいつものことだ。
「任務?」
「お前には関係ねえだろ。」
「あるよう。私の学校だもん」
「ついてくんなよ」
そう言われると付いて行きたくなるのが人間というものだ。もしかして、お互い制服ならこれは制服デートなのでは?場所は学校だけれど。
「ねえねえ私の制服可愛くない?」
悟の前に立ち、スカートの端をつまんで見せれば、悟はまじまじとこちらを見てきた。
「スカート短すぎねえ?足冷やすぞ」
よおく観察してそれかとツッコミを入れてしまう。なぜか心配されてむず痒くなる。私にとってはこの丈が一番足が長く見える気がするし、短いなんてことはない。いい丈感だ。もちろん寒くもない。と思っていたが、へくちと小さくくしゃみが出てしまった。
「悟にくっつけばあったかいもん」
言いながら懲りずに腕を絡めようとすれば、私と悟の間を隔てる透明な壁により阻まれてしまった。
またかと私は聞こえるように舌打ちを打った。いいじゃん腕くらい。減るもんじゃないし。
「お前その調子だと彼氏どころか友達もいねえの?」
「うん。私は悟一筋だよ。」
「おえ…」
流れるように嘔吐くなんてひどい。
悟という人間を知ってしまえば、他の人類皆同等に見えてしまうのだから仕方ないだろう。だって一般の子たちはこんなに長い手足で端正な顔立ちではないし、私が危険な目に遭っても助けてはくれない。悟でなければダメなのだ。罪な男なのだ。
心底嫌そうな顔をする悟に向けて、私は傷ついたフリで眉を下げて胸に手をあてた。序に悟を上目遣いで見つめてみる。
まあ悟はそんな私の姿に気にも留めず歩き出してしまったけれど。
それから金魚のフンのように後をついて行けば、校庭の端にある用具置き場に悟は向かった。
「ここ?倉庫に何があるの?」
「ついてくんなって」
悟にどやされるのも慣れたもので、気にすることなく一歩悟の前に出て、ドアノブを捻った。
「ばか!危ねえから触んな!」
「んえ?」
何が危ないというのか。今日もうちの生徒たちはここから三角コーンやら石灰やら持ち出して部活に勤しんでいるはずだ。
私は特に危機感もなく扉を開ければ、悟に腕を掴まれた。
すると突然景色がガラリと変わり、外の校庭にいたはずが狭く暗い場所になった。突然のことに倉庫の中はこんな暗かっただろうかと考えもしたが、一歩も入っていなかったし、何か別の力が働いたのかもしれない。
「もーお前ほんと邪魔」
私たち二人がやっと入れる位の狭さの中で、私と悟はぎゅうぎゅうに詰まっていた。悟の長い足が私の下に置かれており、私は悟に跨っている状態だ。
悟はうんざりしているけれど、私にとっては願ったり叶ったりの状況で、えへへと笑って誤魔化した。
「呪霊の結界かなあ」
ぺたぺたと黒い壁を触ってみると少しひんやりとした触感だった。弾かれないところを見るに壊したら外に出れそうだ。出れなければ悟と2人っきりだからこのままの方が嬉しいが。
「下は脆そうだな。結界自体も強いわけじゃない。」
「へえ〜そういうのもわかるんだ」
悟はなんでも見えるのかな。そうなればすぐ出れそうではあるけれど、それだけじゃなんだかつまらない。せっかくこんなドキドキハプニングが起きたのに。
私は下の壁を調べるふりをして悟にさらに近づいた。そんな下心を働かせたからだろうか、壁に触れた瞬間電流のようなものが走り、手に激痛が襲ってきた。
「いたっ」
慌てて壁から手を離したが、まだびりびりとした痛みが残る。おかしいなあ。さっきは触っても大丈夫だったのに。
「おい大丈夫か?早く見せろ」
焦ったような悟に少しびっくりしてしまったが、私は隠すように腕を素早く背中に引っ込めた。
「大丈夫大丈夫。大したことないって。」
心配かけまいと笑ってまた誤魔化した。だが、悟はむすくれてしまい、じとりとした目線を向けてくる。
「後でピーピー泣いても知らねえからな」
「泣かないもん!」
ムキになって言い返した。だってもうあの頃の弱虫な私じゃない…はずだ。