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少女は直感する(1/3)


小さい頃、暑い日だったからか、アイスを食べに行こうと悟に誘われて、街まで下りて駄菓子屋さんに行った。
悟は懸賞金というものが掛けられていて悪い人から狙われているらしく、護衛の人がいないと外に出てはいけない。だから私がいつもその役目を買って出た。白雪家の術式を継がなかった私は、その役目を反対されるのは目に見えているから、いつも内緒で二人で出かけた。

アイスも食べてあとは帰るだけだったのに、夕焼けに照らされた橋の手前で、私はぴたりと足を止めた。
「何してんだよ。行くぞ」
「いやだ。いるもん」
「はーうぜ。置いてくぞ」

この時期は悪いものがたくさん出てくるから、見つけたら倒すんだよとお父様に言われた。言われたけれど、私にはできなかった。見た目は可愛くないし、こちらが気付くと襲ってくるのだ。
絶対関わりたくない私はお化けの前を通れなかった。
悟はぽっけに両手を入れたまま、首だけこちらに振り向くと、立ち止まったままの私を見て呆れたようにため息を吐いた。そして続けてそのまま何も言わずお化けを倒してくれて、こちらに近づき手も握ってくれた。
私の孤独と不安はその瞬間に吹き飛んだ。胸の中に温かいものが溢れてきて、下がっていた口角がみるみる上がった。
悟のなんだかんだ優しいところが大好き。守ってくれる大きな背中が大好き。私を見つけてくれるその瞳が大好き。悟の全部が大好き。




「また悟坊ちゃんと遊んだのかい」
モグモグと大好きな唐揚げを食べていたらお父様が話しかけてきた。
いつも私のことなんか興味ないくせに、私と悟が仲良くしていると口出ししてくる。私より悟の方が大事なのだ。なんせ五条家のボディーガードだし、それがこの家では当たり前なのだ。だから仕方なく応えてあげている。
「そうだよ。だから何」
「お前は術式を持ってないんだから、悟坊ちゃんと遊ぶ時は大人を呼びなさい。」
「…はーい」
私が言い返せばお父様のお説教は長いから、適当な返事をしておく。だがお父様の言う通りにするつもりなんて毛頭無かった。これからも悟と遊びに行きたい。もちろん周りの大人には秘密で。
でもいつも内緒で出かけているのにすぐバレちゃうな。ずっと見張られているのかもしれない。それはそれで悟が可哀想だ。なんて不自由な家なのだろう。ご飯は美味しいけど家は好きじゃない。






家に帰りたくない私は、悟を巻き込まないようによく一人で街に出かける。家の周りはセキュリティの面で山ばかりだし、遊ぶ場所もなくてつまらない。
お手伝いさんは四季ごとに景色が変わって素敵だと褒めていたが、お腹が満たされるわけでも、楽しいわけでもないのだから私には心底どうでもよかった。

山を抜けて小さな住宅街が見えてくれば、小さな公園が見えてくる。そこのブランコはギコギコうるさいけれど快適で、満足したらもう帰ろうかななんて気になるからそうなったら帰宅する。

今日もギコギコとブランコに揺れていれば、公園の入り口に車のライトが見えた。
公園に車で来るなんて珍しいなあ、遠いところから遊びに来たのかななんて思いながら見ていると、街灯に照らされなければ夜の闇に呑み込まれそうなほど、全身黒い服の人がこちらに真っ直ぐ歩いてくる。なんだか嫌な予感がしてブランコの鎖を握る手に力が入った。
「お嬢ちゃん一人?」
穏やかな物言いだったが、知らない人には気をつけろと口酸っぱく言われてきた私には危険信号だった。
頷くでもなく、警戒心丸出しで睨みつけるようにじっと見つめた。
お父様は私に術式がないと言っていたけれど、白雪家相伝でないだけで持ってるっちゃあ持っている。8歳の誕生日も過ぎて最近気づいたから、まだ使いこなせていないだけでやろうと思えば私だって…。
そう意気込んだが、相手が悪かった。相手も術式を使える人だったのだ。
一瞬のうちにお札のようなものが飛んできて、私はそこから意識が無くなった。