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少女は壁に阻まれる(1/3)


悟が所属しているという呪術の学校に、悟のコネで籍を置かせてもらうことになった。
時折事務的な仕事も任され、それは日々多くなり、対して戦闘は少なくなっている気がする。だが、こうして花壇の水やりをする時間は心が洗われるし、悪くはなかった。
 光を反射する水滴が鮮やかな色彩を滑り落ちていく。逞しく育つのだよと、親心を芽吹かせている時だった。
「申し訳ありません。お尋ねしてもよろしいかしら」
綺麗な声が背後から聞こえ、なんの躊躇いもなく声のする方に振り向いた。
そこには、花のような華やかさと、太陽のような眩しい笑顔がこちらに向けられていた。そのオーラに目を細めていると、女性は首を傾げた。
「道をお聞きしたいのですが」
「な、なんでしょうか?」
やっとのことで声を出した私のおどおどしさに、女性は丸い瞳を細め、艶がかったストレートヘアを耳にかけた。
「学長室まで案内してくださるかしら?」
「はあ…」
どうやら学長のお客様のようだ。まあ見るからにやんごとなき風貌だしね。私はこくこくと頷いてじょうろをその場に置いた。

「あなた、ここの卒業生?」
学長室までの長い道のりを歩いていると、背後から控えめに声をかけられた。
「いえっコネクションでここに籍を置いてます」
「へえ…珍しい子もいるのね」
なんだか少し声が低かった気もするが、驚きからだろう。私はあまり深く考えないことにした。
「そうですね、融通利かせてくれて感謝してます。」
「そんなこと出来る人って限られてるわよね。」
「あー、まあ。一応その人特級ですしね」
「もしかして…そのコネクションは、悟様だったりするのかしら。」
取り繕うような高くなった声で名前を呼んだことに、私は少々違和感を覚えた。それに悟様なんて呼び方を聞いたのは実家にいた時以来だ。
「そうですよ。お知り合いなんですね」
私は取り繕うこともせず、剣呑な音色で尋ねた。少しは幼稚さを隠さなければいけない年なのに。もし私と悟のことを知ってる人ならば、猶更関わりたくない人だ。
「知り合いも何も、私は悟様の婚約者ですわ」
「はあ?」
途端にこの小娘は何を言い出すのかと、私は混乱と怒りで一瞬我を忘れた。悟に婚約者がいる話は聞いたこともない。生まれた時から一緒にいて、そんな話を聞くことも、お見合いするような機会もなかったはずだ。
勝手なことを言いやがってと怒りが頂点に達した私は、
「悟は私と付き合ってますけど!」
と勢い任せに言った。
「ええ、知ってますわ」
「え?」
しかしこの女は臆することなく淡々と言ってのけた。
つまり、知ってて私に声をかけてきたってことなの。何故わざわざそんなことを?
「殿方の一時の過ちくらい赦して差し上げますのが本妻の務めですわ」
「ほ、ほん?!」
さもそれが当然のように躊躇うことなく言われたパワーワードは私の耳にこだましていた。
こちらが感情的なのに対してあくまで相手は全てを知った上で冷静。動かない壁を必死で押すような感覚だった。焦燥感だけが募っていく。
「でも!悟はそんなこと一言も言ってないし、知らないはず」
「ええ。本家同士が決めたことですもの。今は知らなくともいずれ悟様も従うはずですわ。」
「そんなこと!」
ないとは言いきれなかった。
私の血筋は五条家と身分が違う。天と地ほど違うのだ。私がセルフ勘当したところで、一般の小娘の立場などたかが知れている。
今は悟が五条家を指揮していても、家を繁栄させていく事を考えると、お歴々は黙ってないだろう。きっと古い考えの人が裏で手を回したに違いない。悟は家のためだと、その人たちの意見を受け入れてしまうかもしれない。
黙り込んで考えている私をみて何かを察したのか、婚約者だと宣う女性は鼻で笑った。続けて失礼と一言添えて学長室へと入っていった。