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少女は空を夢に見る(1/1)


悟が変わったのはいつからだったろう。そう疑問に思ったのは高一の大晦日の時だった。
高校生になってから悟は滅多に家に帰らなくなったし、自然と会うことも減った。
私は家を継がないから高専に行くでも普通の高校に行くでもどちらでもいいと言われた。痛いのも怖いのも嫌だった私は普通の高校生になること選んだ。
それが間違いだったのかもしれない。五条家を守るために作られた白雪家に生まれたのだから、高校も悟について行けばよかった。
悟も悟だ。一生私のこと守るって小さい時に約束をしたのに、連絡もぱたりとやんでしまった。もしかしたら忘れられたかもしれない。
荒む感情を宥めるように、外はしんしんと雪が降っている。静かに積もる庭園を眺めていると、昔はよく晴れた日に二人で駆け回っていたなあと思い出が蘇り、自然とため息が溢れた。
大晦日ぐらい帰ってきてもいいじゃん。
縁側に腰掛けて、ぷらぷらと揺らした自分の足を見つめる。そんなこと考えているとなんだか泣きそうな気分になって慌てて上を向いた。

「風邪ひくぞ」
背中にかかった温もりと、懐かしい声に勢いよく振り向いた。
「悟!」
悟だ。腕を組んだ悟が背後に立っていたのだ。私は言いようのない喜びから、涙を飛ばして立ち上がった。
それと同時に、また背が伸びてるなとか、いつもと違う匂いを纏っているなとか、どんどん、私の知らない悟が見えてくる。
そのどれも知れなかったのは悟と音信不通だったからで、積もりに積もった不満をぶつけてやろうと拳を握った。
「なんで、なんで全然連絡くれないの」
「普通に忘れてた。まあ顔出したしいいじゃん」
「よくない。毎日連絡してよ」
「お前は俺の彼女かっつの」
呆れたように笑ってぽりぽりと頭を掻く悟の姿は想定内だった。昔からぶっきらぼうだし、人の気持ちなんて考えない。でも時々こうして優しかった。私は掛けられた羽織をぎゅっと握り締めた。
両親と仲良くない私は、家(と言っても五条家の隣に置かれている建物)に入りたくない時、悟がゲームに付き合えって泊めてくれたし、男の人に乱暴されそうになったり誘拐された時も一番に気づいて助けてくれた。
だから、本当は面倒に思っていても、家に帰ってきてくれたのだろう。それは彼なりの優しさだと思えた。
それに連絡する理由が必要なら作ればいいのだ。私は浮かんだ案を示した。
「じゃあ付き合おうよ」
私の提案を聞いた悟のサングラスがずれて、その隙間から見開いた目が覗いた。昔から変わらず綺麗な瞳だ。
「無理。俺彼女いるし。あと親友もできた」
イェーイとVサインをする悟は至極楽しそうだったが、私には言っている意味が理解できなかった。いや、理解したくなかったのだ。足先から感覚が無くなっていくのは冷えから来るものなのか、それとも名案を即却下されたことによる虚無感からだろうか。
私の世界には悟しかいないのに、悟の世界も私だけの筈だったのに。
今、悟の言葉で確信に変わってしまった。悟が変わったのは高専に入ってからだと。悟はもう私とは別の世界を生きていたのだ。