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少女は愛に包まれる(1/2)


秋も深まり冬が顔を覗かせる頃、悟は多忙らしいが、よく私の部屋に遊びに来るようになった。
新作のゲームを持ってきては、付き合えよと問答無用に付き合わされる。それは深夜まで及ぶこともあり、日曜の朝はいつも寝不足だった。
だが避けられていると思っていたから、構ってくれるのは嬉しかった。私にとっては願ったり叶ったりだ。
今日もお昼過ぎに悟は私の家に遊びに来てくれて、映画のDVDを持ってきた。ハリウッドNo.1らしい。ゲームに飽きたら観たいとのこと。

「悟最近友達と遊ばないの?」
「お前と遊んでんじゃん」
「私じゃなくてすぐるって人」
「……」
悟と大乱闘を遊びながら訊けば、無言で必殺技を連続で出されハメ技を決められる。
見事にステージから吹っ飛べば、勝敗は悟に軍杯が上がった。
ゲームに集中していたから私の声が聞こえなかったのかと思い、ダメ押しで聞いてみることにした。
「悟?」
「あ?」
「学校の友達はいいの?」
「……」
また無言になってしまった。以前は楽しそうに友達の話をしていたのに、この落差は何なのか。察するに喧嘩でもしたのだろうか。悟、仲良くなった人には優しい所見せるけれど、根は性格悪いからなあ。衝突することも多そうだ。
でも、それで私のところに戻ってきてくれたのは好機なのでは?また別の友達のところに行くまでは、この時間を存分に楽しむべきでは?
「ま、いいや。私は悟を独り占めできるから。」
あっけらかんとしながらにっこり笑いかければ、悟はつまらなそうに仏頂面で一点を見つめたままだった。
喧嘩したことを思い出しているのだろうか。早く仲直り出来るといいなあ。悟は頑固だから難しそうだけれど。
「お前が寂しがり屋だからな、仕方なくな」
心配している私の気もしらないで、寂しがり屋と仕方なくを強調して言ってくる悟にムカッとした。
なんなら、そう言ってる悟の方がうさぎもびっくりの寂しがり屋だろうに。私は知ってるんだから。小さい頃に悟のお母さんが一日家を空けた時、私の部屋に忍び込んできて一緒に寝たことを。
「私は一人でも平気だもん!悟の方が寂しんぼでしょ!」
「んなことねえよ!お前だってしつこく連絡しろって言ってただろ!」
「それは心配なのもあって…!」
ガミガミ言い合いながら、ぽかぽか悟の腕を殴っていると、その硬さにびびってしまう。こんなに鍛えられていたっけ?
体格差に驚き、ぎこちなく腕を体側に戻した。
そんな私を見ながら悟は、至極当たり前のように言うのだった。
「俺の事大好きだもんなー」
「好きだけど…!」
「けどなに?」
尻窄みした声に聞き耳を立てる悟は、私との距離を詰めてくる。悟を意識した途端恥ずかしさに耐えられず顔だけをあさっての方向に逸らした。
「…杏子?」
静寂の合間にぽつりと耳に届いたしょんぼりとした声色はポメラニアンを彷彿とさせ、慌てて顔を悟に向けた。
「ごめん!悟のこと急に意識しすぎて、顔見れなくて、うう、」
「思春期かよ」
ガキだなとさらっと流された。急に大人ぶる悟にはあ?と思わず不快な思いが腹の底から声で出てしまう。
と同時に、悟は私の事なんて眼中になくて、恋愛対象として見られていないことを思い出した。
追いついたと思ったらまた躱される。それがとても苦しい。
「ちがうし!」
どかっと近くにあったコントローラーを不満とともに投げつけたが、いつもの如く無下限により悟には当たらなかった。
「危ないじゃん。壊れたらどうすんの」
「私だって!3年後には峰不二子だもん!!」
大人オブ大人な女性が思い浮かばず、今とは対極にある、男を掌で転がすようなキャラクターを言っていた。居たたまれなくなった私は、そのまま部屋を飛び出し、どかどかと怒りに任せて廊下を走っていると、曲がり角で誰かにぶつかってしまった。
「いだっ」
「何?義姉さん?」
げ。と声を聞いた瞬間心の中で叫んでしまった。
「いい歳なんだからそろそろ落ち着いたら」
いつの間にかデカくなっている義弟に薄ら笑いで見下ろされる。
白雪家の次期当主である義弟は、お父様が側室との間に作った子だ。
これがまた嫌な性格な奴で、術式を継いだ上に賢く強いのだが、どこか他人を見下している。
私は義弟が苦手で、いつも目を合わさず話さないようにしていた。
だから今回も、私が何も言わないことに呆れて立ち去るのを床を見つめながら待つことにした。
「最近、悟君とよく遊んでるよね。楽しそうな声が廊下まで響いてるよ」
「……」
自分とは話さないことへの皮肉だろうか。私はムカつきはするが、反論することなく沈黙を貫く。
「いっつも悟君にべったりだけど、迷惑なのわかってる?悟君がどれ程のものを背負って、義姉さんの代わりにどれだけ手を汚してきたか」
「……」
私は視線を床から己の白い手に変えた。確かに私は一度も人を殺めたことはない。それは悟がいつも守ってくれていたから。根は意地悪だけれど、性格は時々優しくて、危険な時はいつも助けてくれた。私の代わりに手を汚して…。
義弟の最もな言葉に拳を握るしかできなかった。悟の苦労も知らず、能天気な私が気に食わないからこんな事を言うのだろうとも察せた。
「悟君も馬鹿だよね。義姉さんみたいな脳みそ空っぽな女の為にそこまで尽くす?普通。同情しちゃうなあ」
私はその言葉に抑えていたものが噴き出し、義弟を睨みつけた。いくらなんでも言っていいことと悪い事があるだろう。悟はバカなんかじゃない。
「私のことはいくらでもバカにしていいけど、悟のことは悪く言わないで。」
私の渾身の低い声に義弟は大袈裟に肩を竦めながら、おー怖っ。と笑っている。珍しく私が反論したのを楽しんでいるようだった。
「じゃあ白雪家らしい振る舞いしろよ。愚姉が」
嘲笑うその姿は、側室の女にそっくりだった。そんなこと言われなくてもそうするつもりだ。愚弟が。とは口先まで出かけたが抑えた。私より優秀な義弟に何を言っても無駄だろう。

悟とは金輪際関わらない、そう今決めた。義弟に言われたからというのは癪だが、私が関わることで、やはり悟が悪く言われてしまうのはもう避けたい。先ほどのことで悟に私への好意やそういう感情は全くないとわかったし。

私はその日、家には戻らぬ決意をし、どこかでオールをしようと意気込んで、クラス会でもきたカラオケ店にきた。
携帯は悟から着信があったが、取りたいのを我慢して我慢して頑張って無視した。
連絡もしないような冷たい女は、嫌われるに違いない。そしてもう遊んでくれないだろう。
これも計画通りだ。自分で決めたことだ。だから…だから泣くのは違うだろ。
テレビの光のみが照らされた狭く暗い部屋で頬に一筋の雫が流れた。
もう悟と会えないんだとか、遊べない事を想像すると辛かった。でもきっと今だけだから今だけは泣くのを許してほしいと、目に見えない誰かに乞うた。