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少女は檻に囚われる(1/1)


せっかく悟のために選んだ着物を纏いながら豪華な料理を食べているのに、全く味がしなかった。
脳内では彼女って何。親友って何と疑問が巡っていた。私の方が悟を知っている自信があるし、悟のことを想っている。でも悟は私の事なんか眼中になくて、選んだのは私じゃない違う人だという事実が胸を刺されたように痛い。痛みは和らぐことなくじくじくと広がっていく。

痛みを抱えたままの真夜中、私は意を決して起き上がった。
歩き慣れた廊下だが、これからすることを考えるとなんだかどきどきした。悟の部屋に行く時はいつもわくわくしていたから、こんなに緊張することなんてなかったのに。

目的の部屋まで辿り着き、襖に手をかけて、音を立てないように横へ滑らせた。
真っ暗な部屋にも浮かぶ白い髪は悟の居場所の目安になった。布団からはみ出した長く白い足は寒そうだなんで思いながら踏まないように沿って歩いていく。

「なに」
眠そうな低い声に、どきりとして進む足が止まる。さすが悟だ。物音立てなかったのに気づかれてしまった。
かちと小さな間接照明をつけた悟の顔が光に照らされた。
もうバレてしまったのならと、私は勢いのままずかずかと悟の布団に潜り込んだ。
「夜這いっ」
ムッとあてつけのように言えば、出てけよと蹴られた。
なんて塩対応なのだろうと、私は布団を握りしめて首を横に振った。悟はため息を吐くと冷めた目を向けてきた。
私は負けじとそのまま悟の着流しに触れようと手を伸ばすが、すんでのところで止まってしまった。触れようとすればするほど、動きが遅くなってしまう。他者の侵入を拒む透明な壁だ。
なぜ術式を発動するのかと、悲愴な目線で訴えてみるが、あえなく無視されて目を閉じられてしまった。
ちぇ。既成事実作ろうと思ったのに。悟の方が何枚も上手で嫌になってしまう。こうなったら洗脳という奥の手を使おう。
悟の耳元に口を寄せて、ボソボソと念を唱えてみる。
「悟は杏子のことが好きになーる」
「お前はばかなのか」
眠そうな声が悟の口から溢れた。
「明日初詣一緒に行ってくれないと一晩中やる」
「すぐると行く約束してるからパス」
「すぐる…」
「お前も早く友達作れよ。おやすみ」
突き放すような物言いと聞いたことのない名前にたじろぎ、何も言えなくなってしまった。どうしてそんな冷たいこと言うのだろう。私とも友達でいてくれてもいいじゃん。私は悟が友達でいてくれたらそれでいいのに。
でも無理なことはわかっていた。私の家が家だし。

私の家は五条家を守る役目があるから、代々その術式が受け継がれる。その血は純潔でなければならないから、一般人としか結婚してはいけない。私は女であり、もれなく術式も継げなかった為、子を為すためだけに白雪家に置かれているようなものだった。だから必然的に悟もとい五条家とは結婚できないし、術師との間に子供も作ることを禁止されている。悟と遊べば近づくことを牽制してくるほどだ。
けれどそんなこと私には関係なかった。悟のためだったらセルフ勘当できるし子供だっていらない。
でもそんなことしたら五条家当主の悟の立場が危うくなるし、そんな我儘は通らないこともわかっていた。
どのみちわたしたちが結ばれる未来はないのだ。