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少女は壁に阻まれる(2/3)


「そんなことは断じて許しません!」
「はあ?」
玄関で腕を組んで仁王立ちしている私に、何も知らずに帰ってきた悟は顔を歪めた。
「今から私がどれほど悟のお嫁さんに相応しいのか、その体に教えこんで差しあげますわっ!」
ぐっと悟の襟首を掴み宣戦布告した。
「急にどうした」
いつもの私と違うからか、ドン引きしている悟に私は今日の出来事を仔細丁寧に話した。
怒りを抑えながらも丁寧に話しているのに、その話を聞いた悟は堪えきれずに吹き出した。
「まーた勝手なことやってくれたわけね」
誰のことを考えているのか、遠い目をしていた。
私はこんなに心を掻き乱されているのに、悟は焦るどころかいつも通りあっけらかんとしている。
訳知り顔に口角を上げる悟が気に入らなくて、両手で頬を挟み視線を無理やり合わせた。
「だから私が本っ妻に相応しいことを証明しますわ!」
「すぐ影響されんだから」
下から内側に手を入れて私の両手を頬から剥がすと、いいいい。と面倒臭そうに手をヒラヒラと振って悟はソファにどかっと座った。
「よくない!私たちちゅーしかまだしてないし、子をこさえなきゃ!」
既成事実を作らなきゃ!と私は勢いよく悟に跨った。五条家は良くも悪くも御三家だ。相伝だ。相伝さえ私が産めば誰も文句は言うまい。
「なにそんなに焦ってんの?」
「焦るよ!悟がまた遠くにいっちゃう」
そんなの嫌だと悟の首にひしとしがみついた。高校から離れ離れになってやっとまた一緒になれたのに、今度は悟の人生に介入できないほど遠くになる。それだけは絶対に嫌だった。
それを宥めるかのように、悟の大きな手が私の背中をぽんと叩いた。
「俺から話つけとくって。一応当主だから」
「きっとそんなんじゃ納得しないよ。私のことなんとしても悟から引き剥がすよ」
私は悟に回した腕にさらに力をこめた。
私のお父様がそうだったから。古い考えの人、力を持つ人は、邪魔者は力尽くで排除するのだ。そのせいで折角できた友達も失った。
「はいはい。杏子の気持ちは痛いほどわかったから。」
落ち着く声で、赤子をあやすようにまた背中を優しく叩かれる。
「俺が好きなのはお前だけ、お前が好きなのも俺だけ。」
おっけー?と耳元で囁かれた。脳が溶けそうな甘い声に私の思考回路はぐずついて頷くしかなくなった。
悟は「ん」と言いながら頭を撫でてくれた。なんだか丸めこまれているようで、私は悟の首元に顔を埋めぐりぐりとしながら唸った。

「じゃあ誓いのちゅーしよう」
私はひとしきり悟にすりすりしてからゆっくりと顔をあげた。
「それで満足すんならはい」
と言って悟は目を閉じた。
こんな簡単に悟が気を許してくれたという驚きと、ときめきに、一瞬たじろぐ。
自ら言い出してなんだが、自分からちゅーするなんて初めてだ。意識するとなんだか急にドキドキしてきた。
 私はよしと心の中で頷き、むにゅと唇を尖らせて、綺麗な薄ピンクの唇にゆっくりと触れた。触れた途端、悟の口角が上がって、ふっと鼻で笑われた。
 な、なんで笑うんだと私は動揺した。角度が違ったのかと思い、何度かくっついては離れを繰り返してみるが、悟に「くすぐったい」と言われた。
 その言い方がまた、甘く、温もり籠った慈愛の声色で、心の深い所まで刺さった。
長年一緒にいても、幼馴染と恋人に見せる表情がこんなに違うなんて。どちらも知ってる私はなんて幸せ者なんだろう。この情報は例え婚約者でも知る由もないことだ。
「悟…好き…」
大好き。と、つい脳内に満ちた感情が声に出てしまった。
「俺は愛してるよ」
「あ…!あいっ?!」
驚きどもった私をみて悟は堪えきれずに笑いだす。
あれ、遊ばれている?
「なんで笑うのぉ…」
しょぼんと声を出せば、「ごめんごめん。からかい甲斐あって」と頭を撫でられる。撫でればいいと思って。