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少女は光に手を伸ばす(2/3)


苛立ちをある一定量超えると、人間は冷静になるのだと知る。親友が消えた時も、大切な昔馴染みが瀕死の状態でも、感情は揺らげど問題解決へ思考が向いた。
ここ数ヶ月、杏子が通う高校の女子生徒が、電車を降りた途端、心臓麻痺で亡くなっている。
どの子も持病などなく、朝から放課後まで体調を崩した様子もないと友人たちから証言があった。流石に不気味に思った警察側から高専に依頼が来て俺が派遣された。

苦しみ悶える杏子は痛々しくて見ていられなかった。いつも俺の目の前で傷つけられる姿が、脳裏に蘇った。
「…絶対助けてやるからな。」
大量の汗を滲ませた杏子をベッドへ寝かせ、汗を拭ってやりながらそう誓う。
こいつに惨いことをした呪詛師をどう嬲ってやろうか、
煮え滾る激憤を晴らしたかった。

とにかく今は、杏子がいつどこで術式を受けたのか、あいつの学校から残穢を辿ることにした。
金木犀が香る駅までの道には色濃く残っていたが、電車となるとどの車両に乗ったのかもわからない。
ここまでかと思ったが、目線を落とした線路にまだ薄く残穢が残っていた。
空中を移動しながら残穢を追えば、ある駅でまた濃くなっていた。見つけてくれと言わんばかりに、その残穢は濃くなり、森奥の豪邸まで続いていた。罠かと思ったが、どんな罠でも大体どうにでもなる自信があった。

「すごいね、ここがわかったんだ」
蛇のように纏わりつく声が背中に当たった。
あいつと同じ制服で、なんだか見たことある顔だった。だが、男の顔は覚えるのが苦手で思い出せない。
「せっかくマーキングしてたのに、あの倉庫の結界壊されるし、居場所はバレるし、本当五条家は目障りだよ」
どうやら奴も俺を知っているらしかった。まあ有名人らしいからな俺は。
「時間が無い。お前を殺せばあいつの術式は解けるんだよな」
俺はそう言いながら掌に赫を宿した。
さっさとこいつを片付けて、杏子の安否を確かめなければ。
「まだ実験の段階だったから、データはないんだ。彼女は他の子達より丈夫だから24時間はもつんじゃない?」
「実験…?」
「白雪に俺の術式を施す前に、他の呪力を持った女を結界で選別して試した。まあ、皆すぐ死んじゃうからデータにもならなかったけど。」
どうやら結界も原因不明の心臓麻痺も、諸悪の根源はこいつの様だった。趣味の悪さに吐き気がする。
結界の残穢とこいつの呪力が一致しているのを見るに、呪力を持つ奴があの結界に触れた時点で術式を埋め込まれるのだろう。そして何か条件を満たせば遠隔で発動できる。それがあの電車ってわけね。

「あいつはお前に何かしたのか」
「そんなの、振り向いてくれなかったからだよ。こんなに好きなのに、あの子は俺を見もしない。いつも、いつも、お前のことばかり。だから殺せば俺の物になるだろ。」
…イカれてる。率直にそう思った。人は力を持て余すと悪にも善にもなるが、こいつは…。俺の大事な大事な昔馴染みに手を下した。湧き上がる怒りに、塵一つなくこいつを葬りたくなる。
なあ、こいつを生きたまま上に引き渡す必要があるのか。
答えてくれる筈ない問いが浮かぶ。以前ならいつも横にいたあいつが答えてくれただろうに、この決断は俺がしなければならない。俺はいつものように口元に笑みを貼り付けた。
「そのイカレ具合なら術師の才能あったのに勿体無えな。こちとら万年人手不足だってのに。」
「力を人助けのために使うなんて理解できないね。己の為のみに行使するに限るよ。なんせ俺らは選ばれた人間なんだから。」
「だから杏子もお前に見向きもしなかったんだろ。残念だったな。同情するよ。」
自尊心の塊の奴は、煽れば煽るほど効く。侮辱されるのが何よりも苦痛だからだ。
しかしこいつは、俺の言葉を鼻で一笑した。
「はっ、でもおかげで彼女のことを隅々まで知れたよ。彼女を巣食う蛇とは情報共有できるんだ。彼女の脈、血液、細胞、どれも俺だけが知っている。」
高らかに言ってのける奴の言葉に、怒りが冷えるのを感じた。一番こいつに効く返しは何か、その高慢な鼻柱を折ってやりたかった。
「味を知ってるのはお前だけじゃないよ」
「あ゙?」
有り体に言えば、漸く奴は本性を表した。
こいつにだけは負けたくなかった。杏子の情報を一つも知られたくなかった。こいつにだけは。
あいつの好きな物、性格、行動、全て俺だけが知っている。知っていればいい。こんな何処の馬の骨ともわからん奴に知られてたまるか。
昂る敵意を俺に向けてきたが、足元を這う蛇よりも先に、術式で奴の半身を抉った。

「何か言い残すことはあるか」
息も絶え絶えの奴を冷徹に見下ろせば、負けじと不敵に笑みを向けてきた。
「お前のせいで彼女は永遠に縛られてる。早く解放しろ」
血反吐を撒きながら、さっきまでの威勢は消え、か細い声で吐き捨てた。
弱い奴を打ちのめしただけだが、少しばかり優越感がわいた。
「もうとっくに解放してる」
寧ろ突き放しているのに、あいつが気付かないだけだ。
さてと、彼女が苦しんだ分、関係の無い少女たちの分、こいつを苦しめるべきか、トドメを刺そうか悩む。
己の力は強大で、じわじわと痛ぶるのには向いていない。耐えられる個体はいないだろう。
もうとっとと殺すか。目に入れるだけでも不快だった。