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淀んだ水 (1/1)


寝たフリをして数時間経っただろうか。
きっと少しの動きで彼は起きてしまいそうだから、腕の中で微動だにせず、瞬きだけを繰り返していた。そのため時計も見ていないから、もしかしたらそんなに時間は経っていないのかもしれない。

好きな人が隣にいて、生きていてくれて、こんなに幸せなことはないのに、なぜか心は晴れなかった。
悟の前ではおちゃらけて、心配かけたくないのに、すぐ見透かされてしまう。なんていうのは嘘で、本音は気づいて欲しかった。気づいて欲しくて悟が引っかかるようなワードを散らした。ごめんねと思いながら、悟の着ているオフホワイトのスウェットを握る。

「寝れないの…?」
ゆうるりとした口調に顔を上げると、寝る時だけはサングラスも何もつけてない素顔を晒している、綺麗な瞳とバッチリ合った。

「ごめんね。起こしちゃった…。」
こんな些細な動作で起きるとは思わなかった。
「脈拍が早いから起きてるなーってずっと思ってた。」
「先に寝ていいのに。」
「僕が嫌なの。」
するりと髪に触れる手つきが壊れ物を扱うようだ。私は悟との間にある隙間を埋めようとさらに擦り寄り、好きな匂いを肺いっぱいになるまで吸い込む。

「目瞑って。」
もう少し綺麗な瞳を眺めていたかったが、悟に言われた通りに名残惜しく目を瞑る。従ったご褒美か、ゆっくりと頭を撫でられた。久しぶりに感じる無骨で大きな手が落ち着きをもたらす。こうされるのが好きってわかってやるんだから敵わない。

「それ好き…。」
「………あのさ、襲いそうになるから黙って。」
「いいよ襲っても。」
「もう喋んな。」
欲情を抑えているのか、腰に回されていた腕で、きつめに抱き寄せられたので、さらに強く服を握る。
いつもなら悟の思いついた時に流されるままという感じなのに、今日はやけに紳士ぶってるなあ。
そういえば休んで欲しそうだったから、我慢してるのかな。そういう所がなんだかんだ優しいんだよね。

「いい夢見れそう。」
「夢はレム睡眠だからね、できれば見てほしくない。」
「最善を尽くします。」
間延びした声で返したが、人はノンレム睡眠とレム睡眠を一定間隔で繰り返すそうで、夢を見ないようにするのは難しそうだ。本人は真面目に言っているのだろうけれど、それがさらに笑いを誘う。

頭上からも微かに息が漏れるのが聞こえて、笑いとの相乗効果で多幸感が押し寄せてきた。
普通じゃない実家に五条家のことや呪術界での私の扱いを考えていたら、本当に私でいいのか、まだ少し決断には早くないかとか結婚にいまいち踏み込めないでいたが、一人の人間として五条悟が好きだと改めて胸の内が叫んだ。長生きできるお嫁さんを考えたら、一般人の方が確率は高いとか、寝る時だけはごちゃごちゃ考えないようにしよう。

私の意識は幸せの海に沈んでいった。





  
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