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銀河の終点 (1/3)


底の見えない暗い淵から意識が上昇すると、真っ白な天井が視界に入った。視線を彷徨わせれば、少し眩しいくらいの光が窓から差し込んでいる。現世での行いを考えれば地獄に落ちそうなものの、ここが天国なのかと目を細めた。

「曜…?」
天使の声かと音のした方に目を向ければ、残していってしまった愛おしい人がいた。
思いの強すぎる己が作り出した幻想なのかと、自嘲気味に笑う。

「よかった…まじでよかった…」
ほっとしたように柔らかな表情は、私が呪具にあてられた時にみて以来だ。やはり天使だからこんな顔もできるのだろう。本来の彼はもっと意地悪なはずだから。
そんなことを考えて返事をしない私を不安に思ったのか、彼の表情はどんどん曇っていく。
「僕のことわかる?」
不安気な声に、私はゆっくり頷いた。
彼は大きく息をはきだして、握っている私の手を額に寄せた。
やけに感触がリアルだった。死ぬことは天国でも地獄でもなく、無なのだと思っていたから。

「ICUに運ばれた時は終わったと思った。傑が竹下通りに行くって言ってたし嫌な予感がしてたんだ。」
それは私に言ってるのだろうか。なんのことだかわからず、とりあえず聞いておく。
「もう無茶すんなよ」
そう言うと大きな手が私の頭に伸びてきて優しく撫でられた。手まで悟と同じなんだ。温かくて、涙がでそうだ。死んでしまってごめんねと言ったら伝えてくれるだろうか。
いつの間にか目尻から溢れたものを、親指が拭いとってくれる。
ありがとうと声を出そうにもしゃがれて上手く発せなかった。
天使は変な声と控えめに笑っていたが、段々本人に似てきたなと思った。

それよりもここはどこかと訊こうとすれば、タイミング悪く彼はスマホを確認しだした。
「ごめん、ちょっと外す」
天国には電話も必要なのかと、ぼんやりとした頭で思う。
でも少し、ここは現実であってほしいと思った。最後に悟と話したことはなんだっけ、また会いたいなと未練がましくなってきたのだ。

「これから任務行ってくる。もうすぐ硝子もくるし僕もなるべく早く戻るから」
家入先輩…?さすがに、危ない任務に行くことの無い家入先輩までも天国には来ないだろう。もしかしたら、もしかするのかもしれない。
ここは紛れもない現実なのかもしれない。


▲▽


私の発言は、この科学的文明の時代にそぐわなかったからだろう、家入先輩は大きな目を細めて大笑いしている。
「そうだよ。そうそう、現実。良かったな運良く生きてて」
くっと笑いを堪えようとしているが、全て溢れている。そんなに面白かっただろうか。「ここは天国ではなく現実なんですか」と問うたことは。

「こんな重症でも可愛いなあ相変わらず」
よしよしと顎下を撫でられて擽ったい。口元が緩みへにゃりと笑ってしまう。こんな風に甘やかされるのも懐かしいなあ。
家入先輩によると、夏油先輩に殺されかけた私は、友人が呼んでくれた救急車で一命を取り留めたらしい。きっと、夏油先輩のことだからとどめは刺さなかったのだろう。助けてくれた友人には感謝しかない。今度無事だとお礼の連絡をとろう。
しかしいつの間にか寝ている間に冷えていた季節は終わり、年も越してもう春が来ていた。私が生死を彷徨っている間に、夏油先輩は新宿と京都で百鬼夜行を画策し高専を襲撃したらしい。

「夏油とやりあうなんてな」
あいつは本当バカだよと憂いを浮かべて微笑した横顔は、高専時代の面影が見えた。
「負けましたけどね」
そう苦々しく言えば、敗北感が蘇り、ぎりと奥歯を噛んだ。悟の中にいる夏油先輩も塗り替えられず、すごすごと悟の隣に居座っている自分自身が情けなかった。

「でも護星の仇は五条が討ったよ。」
「それって…」
「そう、察しの通りだ」
おきてしまった最悪の出来事に、しばらく言葉が出なかった。悟は夏油先輩をついに殺したのか。一体どんな気持ちで…。私が身内に手をかけた時とは比じゃないことは確かだ。悟への負担を考えたら、あの時私が勝っていればと考えるが今更悔やんでも仕方がない。

「私また何もできなかったな」
ぽつりとこぼした言葉に、家入先輩はそうか?と首を傾げた。
「護星は生きてるだけで価値があるだろ。今は己の無事を喜ぶべきだと思うけどね。」
と自分には勿体ない言葉を言われてしまった。内心そんなことは考えられず、ただ眉を下げるしかできなかった。
「あんな五条初めて見たわ。任務の合間を縫って病院に通い詰めてたし、何言ってもずーっとベッドの傍から離れないからさ。」
どこか遠くを見つめながら言う瞳は、その姿を思い返しているようだった。

「捨てられた子犬みたいでしたか」
「そうそう、よくわかってんじゃん」
2人して同時に吹き出してしまい笑い合う。その姿は、一度だけ見たことがあったから。ちゃんと起き上がれるようになったら、悟を抱きしめたいと思った。もちろん力加減はせずに。






  
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