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木陰の静寂 (1/2)


しばらく休暇扱いの私は、その間に教員免許を取ろうと、大学へ3年次から編入した。
悟には、大学へ向かう前に指輪は着けたかしつこく言われるようになった。曰く魔除けらしい。絶対つけてと念を押された。指輪に魔除けの術式でも施したのだろう、そんなに呪霊は寄ってこないと思うのだけれど。
大学生活は1限から5限まで授業を組んでスケジュールはきついが、グループワークも多くて中々刺激的な日々だった。小中とはまた違って、檻の中に閉じ込められた感じもなく、高専のように自由だった。私を嫌悪する人もいなくて、みんな良くしてくれた。こんな世界もあるのかとびっくりしたものだ。

そこで仲良くなった女の子とよく行動する事が増えた。
「曜って、もしかして婚約者いるの?」
指輪してるよね?と食堂でご飯を食べながら、指輪の事を訊かれた。
私は頷いて、結婚していることを伝えた。
「おお、はやいねー。いいなあ。もう子どももいるの?」
「こども?!」
げふげふと噎せてしまった。友達は大丈夫?と苦笑いしながら背中を摩ってくれる。私はペットボトルのお茶をごくりと飲み込み、胸をとんとんさせてなんとか落ち着いたところで口を開いた。
「い、いないよ」
「いないんだー。作る予定もないの?」
「い、今のところは…」
友達はへえ〜と言うとずずとストローでジュースを吸った。
…子どもかあ。たしかに考えはしたけど、ちゃんと悟と話したことなかったなあ。五条家の嫡男とかどういう扱いされるのだろう…。外部に子育て干渉されるのは嫌だなあ。悟はどう思ってるんだろう。聞いてみよう。


帰宅して、ご飯やお風呂の用意をして、試験勉強をしながら悟の帰りを待つ。帰ってきたら、子どもについても聞いてみよう。出張の時以外は何時に帰るか分からないそうで、日付が変わったら大人しく寝る準備をするのが常だ。それまでに帰ってくればいいのだが、今は繁忙期だしわからない。

ずっと一緒にいられたひと時の旅行ははるか遠くに感じる。あれからもうすぐ1年か…。スマホを操作し、カメラロールから思い出を遡る。
いかん。勉強せねば。私はスマホをソファに放り投げ、シャーペンをかちかちして芯を押し出した。

ダイニングテーブルで勉強していれば、いつもより早く、玄関が開く音が聞こえた。

「おかえり悟。おつかれさま」
「ただいまー」
今日も無事帰ってくることに安堵して、にまにましながら迎える。文献を閉じて、ご飯を温めようと立ち上がった。タイミングを見て聞いてみよう。そわそわと悟の動きを視界の端で捉える。
暑い中黒いパーカーに長ズボンでよく動けるなあと思いながら、次々脱いでいく様を眺める。そのままお風呂場へ行ってしまったので、出てきてからにしようと決めた。
テーブルを拭いてご飯を置いている間に、悟は出てきた。やっぱり、ご飯を食べながらにしようかな。

その後ご飯を食べながら、悟が生徒の話をしていたが、なかなか頭の中に入ってこず、うんうんと空返事しかできなかった。

「スカート履いたらさあ、バレちゃって生徒に殴られそうになったよね」
スカートね、うんうん。
「スカート?!悟が?!」
「あ、やっと反応した」
危うくナチュラルすぎて流すところだった。悟はいたって普通に笑顔を浮かべている。なんでさらりと言えるんだ。
「どういう状況で履くことになったの?」
「いたずら?」
こてんと首を傾げて可愛こぶっても無駄だ。
「またいたずら?やめなよ、恵君も迷惑してるんだし。」
しっかり釘を刺しておくが、はーい。と間延びした声で返事をされた。絶対わかってないし、この場をやり過ごすために適当にあしらっただけだろう。まったく。私が睥睨すると、悟はべーと舌を出した。
昔は可愛いと思っていた悪ガキ態度も、パパとなったら話は別だ。きちんと立派な背中を見せてくれるだろうか。

「あのさ…悟」
「なに?」
「もし、もしだよ、子供ができたらどうする?」
「え!できたの?!」
あまりの驚き様に、もしもだけどねと念を押したが、僕と曜の子絶対可愛いんだろうな〜と悟は目を輝かせて心底嬉しそうにしている。聞こえていたか疑わしいが、ま、まあこれはいいパパになってくれるのでは。私は確信を得てふむふむと頷いた。




  
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