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土台の凝固 (1/1)


悟の突拍子もないことには慣れていた。
いつもなら、また突然だなあははは。とよく笑って流していたし。
その時の私は呑気なもので、座り心地もよく色も好みのソファでアイスを頬張っているときだった。視線を向けられていることに気づき首を傾げた。
「明日実家帰るから準備しといて。」
ぽたりとバニラアイスがテーブルに一滴落ちた。
溶けちゃう、早く食べなきゃと思うのに、それよりも実家という衝撃に手が止まる。
この言葉には慣れていなかった。
「あの、あの、え?無理だよ。」
「はあ?もう籍入れたんだから観念しろ。」
そんな逮捕状みたいに言われても。
「ごめん、まだ紙出してないよ。」
「僕が出しといた。だから観念しろ。」
悟は睨みをきかせて私の腕をぐっと掴んできた。まさか手錠を?と思った予想は外れた。真っ赤な舌を覗かせて、溶けだしたアイスをぺろりと舐め上げたのだ。見せつけるような仕草に悟は満足気に口角を上げた。
「なにしてんの?!」
「アイス溶けてるから。」
「アイスじゃなくて、婚姻届出しちゃったの?!」
「そ!忘れてるな〜って思ったから出してあげたよ。僕優しいから。」
普通優しい人は自分で優しいとは言わない。
彼も例外ではない。
毎回突飛な行動に驚かされるが、まさかここまでとは。呑気にアイスを食べてる場合では無いだろう。
「なんで出すよって一言話してくれなかったの?そういう大事な事は言わなきゃダメだよ。」
「あーごめんごめん。記入欄埋めてあったしあとは出すだけだったからてっきり。」
いやーごめんねー。とヒラヒラと手を振って、軽く笑いながら言う悟に、結婚の重さをわかっていないように感じた。
「ただの紙切れじゃないんだよ。もうちょっと重みを考えてほしいよ。」
「もう出しちゃったんだからいいじゃん。曜も五条の名を冠せば、上からのイビリも無くなるし僕も融通が利くし、何かデメリットあるかな?ないよね。はいこの話おしまい。」
パンパンと手を叩いて次いでに食べ終わったアイスの棒も術式で塵にしゴミ箱に弾いた。
「私の事心配してくれてるのは痛いほどわかるけど、夫婦としてやってくなら話さなきゃだめだよやっぱり。これからはそうしてね。」
「話しても出さなかったろ。」
先程までにやにやと笑っていた悟から笑みが消えた。
冷徹な声に呼吸が止まりかけ、大きく息を吸った鼻がすんとひくつく。
「……出したよ。」
「いーや、出さなかったね。五条にビビってるのはもちろん、嫁入りで術師辞めさせられるとか思ってたんじゃないの。」
悟は人差し指を額にあてながら、部屋にぶちまけてきた言葉は図星だった。
そして理由はそれだけじゃなかった。私の家族のこともあるのだ。もしかしたら両家顔合わせなんて古いしきたりがあるのだとすれば、うちは存命なのに顔を出さない無礼にあたると考えていたから。
「あと、私の実家は普通じゃないから。」
「んなもん五条になれば関係ねーよ。あんな家忘れろ。」
悟はそう言うが、家族というのは妙な縁で繋がっており、一緒に暮らしたという行為がそうさせるのかもしれない。
切っても切っても切れなくて、どこかで交わってしまう。
悟の言うように、軽蔑と侮蔑の一太刀で切れてしまったらどんなに楽だろう。
「五条家の人に言わなくてもいいのかな…」
「はあ?律儀に言うバカいるかよ。」
「家族いませんで通せる?」
「当たり前じゃん。僕が当主なんだし。いないっていったらいなくなるよ。」
「最強じゃん…」
「最強だから。」
この件何回やんの?と悟は鬱陶しそうにソファの背凭れにふんぞり返った。
「あと、術師続けたかったら任務の数減らして続ければいいから。その代わり実家に来てもらうけど。」
「そういうことなら…うん、わかった…。ありがとう。」
ぴしと足を揃え手をお膝に置き、ふんぞり返るガラの悪い男にぺこりとお辞儀する。
「不束者ですが…よろしくお願いします。」
「よきにはからえ。」
なんか少しズレた返しをされて笑ってしまうと、真面目にやれ。とわしゃわしゃ頭を撫でられた。いや悟もね。
今まで心配してた重荷が少し下りたことにより、晴れやかな気分になり、よしと立ち上がった。
「どこいくの?」
ソファを離れた私を子犬のような顔で見つめてくる。
傍にいてほしい時によくする顔だった。今回はエスパーじゃないんだな、なんて思いながら冷凍庫を開ける。
「アイス。悟が食べちゃうから。」
「僕の分も。」
「はいはい。」
よく2つも食べれるなと思いながら、2人分のアイスを取り出し持っていくと、ぴとと悟の頬っぺにあててにんまり笑う。
「つめた!なに?」
「仕返し。」
「曜って昔から引き摺るところあるよね。はーほんと女ってネチネチしてる」
「主語大きいね。」
そんな女と結婚しようと決めたくせに。失礼な男の発言を流しながら、ぺりぺりと袋を開封する。ぱくりと頬ばれば、ひんやりとした甘味はじんわりと心に沁みていく。



  
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