×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
木陰の静寂 (2/2)


翌日、補助監督になった伊地知君からお礼の長文メールが届いていた。ここ数年は伊地知君と関わることもなかったので、全く心当たりもなく、何事かと目を瞠った。
届いた内容を要約すると、五条さんを更生させていただきありがとうございました。とのこと。
悟が更生?私が知らないところでまたなにか悪いことしてたのかという呆れとともに、私は何もしていないため、なんだかモヤモヤした気持ちになった。
一瞬、浮気…してないだろうかと嫌な考えが過る。だが忙しい悟に限ってそんなことはない。
だって、昨日だって、勉強してたら寒くない?ってクーラーをつけてても少し暑いくらいなのにブランケットをかけてきたし、学校行く前も無理しないでねと体調を気遣ってきた。普段そんな優しさは時折見せるくらいで、こんな頻繁ではない。朝から愛されているのを実感し過ぎたくらいだ。

不安になる要素などないまま、私は玄関を開けた。

「え…」
「あ!おかえりー!連絡くれれば迎えに行ったのに!大丈夫だった?」
「た、ただいま…全然大丈夫。」
私は全然大丈夫なんだけれど…。部屋の異様さに言葉が詰まった。悟はにこにこと駆け寄ってきて、腰に手を回してやんわりと支えてくる。
ここ、私たちの家だよね?と視線で横顔に訴えかける。私は夢を見ているのかもしれないと、ごしごしと目を擦った。
「目痒い?目薬あるよ。新品。」
私は無言で首を横に振った。そういうことではない。
「これ、この、これ、どどどどうしたの?!」
ようやっと口を開けたが、困惑が強くでて思わず吃ってしまった。
………なぜか部屋中にベビー用品が置かれていたのだ。

「え?だって、赤ちゃんできたって」
はりきって用意しちゃった。と言いながら悟はてへと舌をちろりと出している。まだできたわけではないのに、はりきりすぎていないか?
「赤ちゃんはまだできてないよ?」
私の天啓のごとく一言に、ん?と悟は首を傾げて固まった。体感にしては数分の沈黙がおりた。
私は睫毛を瞬かせて部屋と悟を交互に見つめる。

「…なんだ…そうなんだ…」
全てを理解した聡い悟は、見るからに落ち込んでしまった。
う…そんなに楽しみにしてくれてたなんて。
私が余計なことを言ってしまったために、罪悪感に駆られる。
思わず子犬のような悟を正面から抱きしめた。申し訳ないけど…可愛い。
私のためにここまでしてくれるなんて、可愛いがすぎる。
「ややこしい事言ってごめんね…。沢山買ってくれてありがとう。」
そう言えばぎゅうと強めに抱きしめられて、大きなため息が降ってきた。
「楽しみだったのに」
「…可愛い」
「は?」
「な、なんでもない!何も言ってない!可愛いとか思ってない!」
勢いよく顔を上げて弁明するが、悟に冷めた視線を向けられた。
…いけない、つい本音が。

「ま、これからいっぱい子作りすればいいしね」
悟がぱっと明るさを取り戻したはいいが、私は子作り…?と若干嫌な予感がした。それも束の間に腰を引き寄せられてさらに悟と密着する。
「あ!…あのね、子どもができたら2人で育てたくて…でも悟のご実家のこともあるし、それも難しいかな?」
慌てて悟の気を逸らそうと、今まで言おうか言うまいか悩んでいた悩みを打ち明けた。
ちらりと視線を上げると悟の眉が少し上がる。
…やっぱり、厳しいのだろうか。
「いいよ、2人でね。」
「うん、大事に育てたい」
よかったと悟の許可も貰えたことに一先ず安堵する。
まだこれからだというのに、散らかった部屋から賑やかな家庭を想像してにやけてしまう。





  
list