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月まで逃避行 (4/8)


任務から帰れば、曜が観たいと借りてきたDVDのパッケージを眼前に差し出された。DVDよりもその眩い笑顔に頬が緩む。
一時は疲弊し切っており、笑顔も取り繕うような顔ばかりしていたから、最近は元の明るさが戻ったようだった。

「なにこれ」
「話題のフランス映画らしい!」
ふーんとあらすじを聞き流すが、フランス映画って地雷が多くなかったか。
ほぼホテルに軟禁してるようなものだから、やることも無く、映画ばかり観すぎて変な路線に走っているのだろう。

「ポテチとコーラも用意しちゃった」
ソファに沈んで足を組むと、ローテーブルに置かれた品が目に入る。
「コーラでいいの?」
炭酸を飲むイメージがなかったので意外だった。
「悟が好きだから」
あ、コーヒーの方が良かったかあ。と額に手を当てている。そのあざとい仕草は擽られた。俺の為に選んでくれたのかと思うと、そのいじらしさはたまらない。
「僕はどっちでもいいよ」
額に置かれた手をとり、ゆるりと絡める。あ、顔赤くなった。いつまで初心な反応するのだろうと、毎回仕掛ける度に楽しくなる。
固まってる曜を横目で見ながら、片手でリモコンを操作し再生する。
「…あ、ありがと…」
声ちっさ。
「今度、加賀の方で祭りやるらしいから一緒に行こう」
「えっ次は石川…?!」
「楽しみだね」
大きな目を見開いて驚く顔に、満足気に笑う。本当はサプライズでも良かったけど、浴衣も一緒に選びたいし。
「楽しみだけど…。任務立て続けなうえ悟は大丈夫?」
キュッと小さな手に力が入った。こいつのことだから、また自責の念に駆られてそうだな。そんな必要ないのだと口角を上げて口を開いた。
「僕を誰だと思ってんの」
てか雑魚の中の雑魚。雑魚オブ雑魚だからね。逆に疲れろって方が難しい。
その言葉に安堵したのか、曜は眉を下げて微笑んだ。また痩せたのか、儚さが増した姿につい眉間に力が入る。食生活まで管理するのはどうかと思いとどまっているが、そろそろいいのではないか。
お菓子ばかり並ぶ映画に目線を向けながら考える。

と思えば急に過激なグロシーンに移り変わり、食べ物の事など吹っ飛んだ。
曜も衝撃を受けたようで、んげっと変な声を出している。
そしてまたシーンが変わりどういう展開なのか徐々に明らかになっていく。
はたして、このシーンは必要だったのか。俺は首を傾げた。

大本は熟年夫婦の枯れた仲の修復に向かうストーリーだ。フランスのブラックジョークにしらけながら、コーラを口に含む。物語は淡々と進み、ぶっちゃけつまらないが、曜はすっかりストーリーに魅入ってる。
俺はもう飽きたので、曜の手を弄んだり、ポテチを投げて口に入るかチャレンジをしていた。
「わー夫婦の仲戻って良かったねー」
「ねー」
終わったらしい映画の感想に、適当な相槌をうち、もぐもぐとポテチを頬張る。
「また僕のおすすめ持ってくるよ」
「前に観たのとどっちが面白い?」
「んーどっちも」
曜は楽しみと目を細めて笑う。その可愛さの暴力に耐えられなくて、本能のままに抱き締めた。
あまりがっついてると思われたくないが。可愛すぎるのが悪い。首元に埋めた頭を優しく撫でられる。

こいつは俺にはできなかったことをやってのけた。呪われてたとはいえ、身内を祓った。対して俺は親友を殺せたのに殺さなかった。
自分と同じ場所に立って欲しくなかったのに、いつの間にか飛び越えられていた。
だがこれで俺も、次会った時には容赦なく決断を下せる。
それにこいつは消化できず抱え込むタチだから、イップスにもなるし、才能はあっても呪術師には向いていない。
俺の中で守られてればいいのだという思いが、日に日に強くなる。
ふと、この術師休業中をどう思っているのか気になった。むくりと顔を上げて口を開く。
「どう?バカンス。羽も休まった?」
「うん。悟とたくさん過ごせて幸せ。」
柔和なゆったりとした声に心臓が反応する。ちくしょう可愛すぎる。ずるい。
緩みきった口角のまま、曜の頬を親指でなぞる。このまま俺の見える範囲に縛り付けておきたい。
「私考えたんだけど、補助監督か高専の教師になるのもいいと思ったの。前線から引けば悟も安心でしょ」
何を急に言い出すのかと撫でていた親指を止めた。曜の提示した妥協点に、俺はすぐに肯定を示せなかった。
高専に籍を置き続ける限り、上は俺の見えない所で曜への過酷な仕打ちは止まないだろう。
上は女に厳しいからなあ。でも曜はそれもわかってるのだろう。
「いいよ、夫婦で同じ職場とか燃えるしね」
「そう考えると照れるね…でもありがとう。」
悟大好きと言われながら首に腕を回された。なんだか上手く丸め込まれた気がするが。
次に曜の身に負担があれば即刻辞めさせるけれど。それは今は言わないでおこう。




  
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