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月まで逃避行 (2/8)


恵君を家まで送り届けて手を振ると、小さく手を振り返してくれた。
みた?!と得意気に悟に振り返ると、僕に振ったんじゃない?と自信たっぷりに言われた。
なわけあるか。
あれだけクソガキ扱いしてたことをもう忘れたらしい。都合のいい記憶力である。
「早くしないと電車無くなるよ〜」
言葉に反してのっぺりとした物言いだが、私はそれはまずいと少し足早に悟の隣を歩きだした。

今日から私たちは旅行に行く。それも任務付きの。
初夏の忙しさと私の長期休暇により、上層部の嫌がらせが悟に集中した。悟の出張続きが予定され、2人で会える時間はごそっと減らされた。
そのためホテルまで付いてきてと悟は問答無用で荷造りをさせた。これがハネムーンだよと。
「いつかは海外も行きたいな〜」
「なんと、海外任務もあります」
「え!どこ?」
「秘密」
なんと。サプライズ好きの悟らしい。悟と一緒ならどこでも嬉しいからいいけど。同じような件をやりながらも、その度わくわくしてしまう。我ながら単純だなあと思う。

△▼

「1泊にしては豪華だね〜」
広々としたホテルの一室に感嘆する。これが五条家の待遇…。
学生、呪術師になっての遠征任務でもこんなに豪華な部屋が割り当てられたことはないなあと、簡素な部屋を思い浮かべた。

「2人泊まるからグレード上げてって頼んだの」
差分は僕が出すからって。と、悟がいつの間にか根回していたようだ。
「私は狭い部屋でも大歓迎だよ」
悟にくっつけるし。と大きな窓越しに夜景を見下ろす悟に背後から抱きついた。でも悟には普通のベッドじゃ小さいか。

「はしゃいじゃって」
「悟もテンション上げてこ!」
平坦な口調の彼を見るやいなや、いぇーいと腕を掴んで持ち上げたが、肘から先はだらんとしている。全くテンションは上がっていないことだけがわかった。
「今日はもう疲れたから風呂入ろ」
「お背中流しましょうか?」
疲労の混じる言葉に、悟も上に扱き使われて相当参っているであろうし、なにか出来ないものかと、人差し指で背骨をなぞった。
「お誘い?」
「疲れてるんでしょー?」
切り替えの早さに、まったくもうと眉を顰める。
え、しないの?と首だけこちらを振り向いてごねる彼を脱衣場に押し込んだ。
疲れているのにやる気だけはあるらしい。
人は疲労が溜まると本能的に子孫を残そうとすると本で読んだから、多分その影響だろう。
「曜が先に入って」
扉から上半身だけ脱いだ悟がぬっと現れた。
「どんなこだわり?」
謎のこだわりをみせる彼に首を傾げたが、大人しく従って、いそいそと服を脱いでお風呂に入った。バスとトイレが別に、透明なガラスで仕切られた広々としたお風呂と、キラキラとした照明に少し驚いた。いつも任務で泊まるホテルと違いすぎる。









  
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