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未来は黄金色 (2/3)


「野暮だけど…坊ちゃんと上手くやれてる?色々すごいでしょ。」
「あ、はい、悟さん…すごいですよね。私が窮地に陥った時も命懸けで助けてくださいました。殺されそうにもなったけど。」
ひそひそと話してる声は全て筒抜けだった。
気さくな女中頭は曜に臆することなく話しかけている。
適当に流せばいいのに、曜も善良なため無下にせず丁寧に受け応えをしている。
「昔からなんでもそつ無くこなすんですよ。」
「へ、へえ〜小さい頃なにかされてたんですか。」
「ヴァイオリンとか乗馬とか絵画に書道、剣道や弓道なども嗜んでおられました」
「なんでも出来るじゃないですか。天才ですか。」
「まあ坊ちゃんですから。」
すごーと曜は目を輝かせて俺を一瞥した。
逆に出来ない奴なんていんの。
そんな昔の話掘り返して何が楽しいんだか。不貞腐れている内心に反して、にこりと微笑み返した。
「小さい頃のアルバムみます?」
「みたいです!」
実物が目の前にいるのに見る必要なくねえ?
さっきまでの陰鬱とした気持ちはどこへやら、畏まってた曜もだんだんと砕けていき、期待に膨らんだ顔にじとりと視線をやる。
ぱちと視線はあったが、出来てない口笛を吹きながらそっぽを向かれた。可愛いから許してしまう。
「ではお部屋にお持ちしますね。」
「はい。ありがとうございます!」
わくわくと顔に書いてある曜は立ち上がり、軽快な足取りで歩いていく。
アルバムの中の俺に曜の愛念は奪われ、目の前の俺の事は眼中に無くなっている。
俺は嘆息を吐きながら、立ち上がった。

緩慢な足取りで部屋へ向かえば、既にアルバムとやらを2人して正座しながら食い入るように見つめている。
その様子を腕を組んで柱に寄り掛かりながら見下ろす。気に食わん。
「かわいい!くそがき!くそなまいき!笑ってない!でもかわいい!」
曜はキャッキャと、俺の袴姿を見た時より、褒めてるのか貶してるのか分からない言葉を感情のまま吐き出している。
少し癪に障るがはしゃぐ笑顔も可愛いので、小さな溜息に混ぜ込んで流した。
「小さい頃は奥様と仲良く手を握って歩いていましたねえ。」
「ムスッとしてるけどママのこと好きだったんですね。」
「そうそう。」
へえ〜と写真の中の俺を愛おしむ横顔は、どんな俺の姿でも同じ反応をしたのだろうと思う。悪ガキでも優等生でも、俺そのものを肯定するのだろう。
「ねえまだあ?」
「あらあら。ではあとは若い2人でごゆっくり。」
拗ねた俺の呼びかけにも、にこにこと返して女中頭は部屋を出ていった。
女中頭とは昔からの馴染みで、俺にとってはいてもいなくても変わらない存在なのに、ずっと俺の事を見ていたのか。アルバムまで作っていたその働きはご立派だなと今更気づく。だからといって何か礼をしようという気は起きない。あっちが勝手にしていることだし。

目線を入口から下に向け、未だに食い入るように見ている曜の隣に座る。
アルバムをちらと覗き込めば、覚えのない写真ばかり。ここにない高専生活、術師や教師になってからの生活の方が色濃く覚えている。

「髪短かったんだね〜可愛いなあ。悟は短くしないの?」
写真を見たあと、俺の顔を嫣然とした眼差しで眺めてから後頭部に指を差し込んできた。小さい頃の髪型と比べて見ているのだろう。指先で絡めては離してを繰り返す手先に、首が熱を持つ。
「この辺切ろうかな。暑いし。」
襟足辺りに伸びた曜の指先に自分の手を重ねる。
「またかっこよくなっちゃうねー。」
「まあ僕だからねー。」
軽く口角を上げながら髪から指を離してその手を掴んだまま指をゆっくり絡めた。さっき邪魔された続きをしようと考え、腕を引く。
「ちーちゃんに会った時、悟の小さい頃のこと訊いてもいいのか悩んでたけど、思わぬ形で知れてよかった。」
「なんでそこで悩むの。いつでも訊けばいいじゃん。」
「私みたいな過去だったら、言いたくないでしょ。こんな風にアルバムも残ってないし。」
空笑いから紡がれたその言葉に内包されたのは、私の過去は聞かないで、だと捉えられた。
察するに、言いたくないことを色々されたのだろう。
俺はこいつが自ら話すまで聞くつもりないし。
別に自分の小さい頃なんて話してもいいが、殆ど覚えてない。
過去どうこうより、今の俺が今の曜を好きになってしまったのだからぶっちゃけ関係ないんじゃね、とは繊細なこいつに言わないでおこう。
「過去のことは、僕も聞かれたら答えるし、曜も言いたくなったら言いな。」
ね。と小さな頭を撫でて続ける。
「写真はこれから何枚でも撮ろうよ。なんなら今からでも。」
「撮る!とろうとろう!働いてたら和装なんてそうそう着れないもんね!」
曜はうっきうきで鞄から新機種のスマホを取り出して、パシャリと撮った。
こいつはすぐに画面の俺に夢中になるから嫌なんだよな。
でも自分のアルバムもないから、こうして俺との思い出が残ることにとても感動しているのだと今になって気づき、何とも言えない慈愛が胸を満たした。
それならばと、いつもならスマホを奪い取るところを気を利かせて留まった。







  
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