部屋の片隅にある大きな宝石箱を、私はほとんど開けたことがない。 ルビーの指輪、ダイヤのネックレスにパールのイヤリング。 でも、こんなもの私はいらないの。もっと素敵な宝石箱を持っているんだもの。 ティータイムにはサファイアを 昼下がりには決まってクリフトがお茶を淹れてくれる。午後の木漏れ日が目に眩しい。 レースのテーブルクロスの上には集めた光を反射して光る、硝子のティーポット。 「まるで、宝石箱みたいね」 お茶を用意していたクリフトが穏やかに微笑む。 「確かにそう見えますね」 硝子のティーポットの中には紅茶に沈む、みずみずしい果物たち。 琥珀に閉じ込められた色とりどりの宝石のように、午後の光を集めている。 葡萄は黒真珠かしら。キウイはエメラルド。オレンジは、林檎は、苺は? クリフトが準備するのを待ちながら、私はティーポットに泳ぐ宝石達をうっとりと見ていた。 「さあ姫様、古代の女王が愛飲したと言う、宝石入りの紅茶を召し上がれ」 優雅な仕草で私の前にティーカップを出すと、クリフトはおどけたようにそう言った。 「宝石も、食べていいのかしら」 「勿論ですとも」 古代の女王を気取ってみた私に、クリフトは仰々しく答える。 スプーンで掬って口に運ぶと、琥珀に温められたエメラルドは、形を柔らかに崩しながら喉をゆっくり通って落ちた。 ふわりと広がる、フルーツの香り。 何てステキな宝石箱! 「私は……本物のダイヤモンドを姫様に差し上げる事は出来ませんが」 急に話し始めたクリフトを見ると、顔が少し赤い。 「姫様がご所望とあらば、毎日この琥珀色の宝石箱をご用意致します」 言い終わってからチラリと私を見たのが可愛らしくて、クリフトをぎゅっと抱き締めてみたい、私はそう思ったの。 (それは、二人だけの宝物) -------------------------------- 「カイ、ナキ。」の青空さまより頂きました。 食べ物をからめた話が大好きな私には、もうたまらないプレゼントでした。 果物たちのみずみずしくてきらきらとした描写がとっても素敵で、二人の会話も何だか可愛くて。 果物を淹れた紅茶っておいしそうですね。ネットで画像検索してみたけれどとってもきれいで……。一度は試してみたいなあ。 素敵な小説、ありがとうございました! |