ベッドに入ってくるなり服を脱がせにかかってきた彼を彼女はあくび交じりの声で、けれどはっきりと「今夜は眠らせて」と制した。

「……しないの?」
「うん」
「なんでさ」
「眠たいから。メローネだって今日は仕事で疲れてるんでしょう?」
「男ってのはこういう体力は温存してるものなんだよ」
「ふうん……」
「男と女がベッドの上にいるのにやらないなんて有り得ないよ!非常識だ」

まるで無関心な反応に彼が声を張り上げても、彼女はうるさそうに顔をしかめるだけだ。

「非常識でもなんでもいいよ。嫌ならソファーで寝て。私は眠たいの……」
「俺、やる気満々なんだけどなあ」
「私は寝る気満々なの……」

言いながらも、彼女の意識はもう半分ほど眠りの世界に浸かっている。
口を開くのも億劫になりながら「おやすみ」と言うと、彼女は彼の鼻先にキスをして、サイドテーブルの上のランプを消した。

「こら、寝るなよ」

そんな抗議の声が聞こえるなり、彼女の首筋にひやりとしたものが押し当てられた。
彼の両手が、彼女の首を引っ掴んできたのだ。

「やだメローネ。手、冷たい……」

けれど彼女はうなるような、ひどく聞き取りにくい声でそう言っただけで大した抵抗もしない。

「君の首は暖かいな」

言うなり今度は首筋を舌でざらりと舐めだしたので、さすがの彼女も「くすぐったい……」と呟いて彼の脚をのろのろと蹴った。

「足は冷たい」

メローネはそう言って楽しげに笑うと、彼女の両脚を自分の脚で挟み込む。

「寝かせてよ……」

脚を固定された彼女は力なく、片手を伸ばして彼の頬をぺたぺたと叩く。
負けずに彼は猫か何かのように彼女の鼻先を舐め、頬を引っかき、首筋に噛み付いた。

「やめてったら、メローネ……」

彼女は堪えかねて彼の額を指で弾くと、顔だけそっぽを向いた。
すると今度は耳たぶを唇で挟まれ、軽く歯を立てられる。思わず肩がびくりと跳ねる。
震えた声で「やめて」と力無く言えば、彼が喉の奥でからかうように笑うから、彼女はなんだか少し腹が立ってきて、ちょっと怒った顔をして彼の方を向いた。
彼はそれでもへらへら笑ったままなので、彼女は彼の髪を引っ張った。すると頬を引っ張られたので引っ張り返して、鼻をつままれたので思い切りつまみ返した。
足をばたつかせ暴れて、彼の胸を叩いて、やがてなんだかおかしくなって彼女はけたけた笑い出した。

「もう。……目、さめちゃったじゃない」
「なあに。適度な運動すればすぐに眠くなるさ」
「運動、ね」
「いい運動を知ってるんだけど、教えてあげようか?」
「それはご親切に」

彼の言う“運動”がなんのことを指すのかなんて、わかりきったことであって。
彼女はもう眠気も覚めてはっきりした声で「教えて」と言った。彼がうれしそうに笑う。

「それじゃあ、まず初めに服を脱ぎます」

彼はまるで講義でもするような口調でそう言うと、彼女の服のボタンに手をかける。
噛み付かれた耳たぶや首筋がじんじんと心地よく痺れるのを感じながら、彼女は大人しく彼のレクチャーに耳を傾けることにした。




ベッドの上のふたり(夜更かし)






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