落ち込んでた。とっても落ち込んでた。理由は長い上に、他人からしてみたらきっと下らないことだろうから省略するけれど、とにかく今日の私の気分は最悪だった。
放課後、お気に入りの場所である屋上で体育座りをして空を眺めてたら、いろんなことが頭を巡ってきて、気が付くと涙がぼたぼたこぼれてきた。
そのまま私はしばらく縮こまって啜り泣いていた。冬の風は冷たかったけれど、そんなのどうでもよかった。制服のスカートがびしょびしょになってきたころ、肩を誰かに叩かれた。

「!」

誰もいないと思っていたから、私は驚いて、目に涙を溜めたまま顔をあげた。

「く、空条くん……」

私は切れ切れに彼の名を呼ぶ。空条くんは何も答えず、缶ジュース片手にしゃがみ込んで私をじっと見ていた。
クラスは違うし話をしたこともないけれど、空条くんは学校内じゃ結構有名な人だから知っていた。そう言えば時々、屋上で寝て居る所を見かけたこともあったっけ……。
まさか泣き顔を見られるなんて。涙に濡れた頬にかあっと熱がのぼるのを感じる。

肩を叩いたのに、彼は無表情のまま何も言わない。私はどうしたらいいのかわからずに、おろおろと彼を見るばかりだ。

と、空条くんはおもむろにポケットから煙草とライターを取り出した。
何をするのかと見つめる私の前で、彼は煙草を五本口にくわえて、ライターで火を点けた(一気に五本、ということに気を取られて、未成年の喫煙をとがめることも忘れてた)

それから空条くんは手も使わずに火のついた煙草を口の中に入れてしまった。私はぽかんとしたまま、彼から目が逸らせない。
煙草が五本も口に入っていると言うのに、彼は平然としている。そのまま、持っていたジュースを飲みだした。
ジュースを二口ほど飲んだ後、彼は煙草を口から取り出した。五本とも、火が消えていない。

「わ……」

単純にすごい、と思う気持ちと、「どうして突然私の前でこんなことを?」という気持ちが入り混じり、私はおかしな表情のまま固まってしまった。
とにかく何か反応を返さなければと必死に思考を巡らせ、ようやく「す、すごい……ね」と言うと、空条くんはよし、とでも言うように頷いて、煙草を四本消すと、残りの一本はくわえたまま私の隣に寝転んだ。
私はまだ、狐につままれた気持ちのままぽかんとしていたけれど、しばらくして、自分の目に溜まっていた涙がいつの間にか引っ込んでいることに気が付いた。

「……空条くん。その、……もしかして、元気づけようとしてくれたの?」
「……お前の泣く声がうるさくて寝られなかったんだよ」

「それだけだ」と言って彼は煙草を消し、「それやるよ」と飲みかけの缶ジュースを指差すと、学生帽を目深に被った。

「もう起こすなよ」

ぶっきらぼうな声音だけれど、その言葉にはどことなく温かみが感じられた。
不良だなんて言われているから怖い人だと思っていたけど、結構優しくて面白い人なのかもしれない。
私は鼻を啜り、袖で濡れた頬を拭って、彼に笑いかけてみせた。

「……ありがとう、空条くん」

彼は何も答えない。けれど唇の端はほんの少しだけ、笑みの形を作っていた。



屋上ではお静かに




仮タイトルは「新春かくし芸大会in屋上」でした。承太郎は結構茶目っ気ある人だと思います。







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