たくさんのものを一度に目の前に並べられて、『あなたには選択できる権利がある。さあ、どれでも好きなものを選んでいいのよ』なんて言われても、とても怖くて逃げ出したくなる。
『自分で決めてもいいよ』という言葉は優しいのかもしれないけれどとても残酷で、選択権を手渡されるたびどうしていいのか分からない。
夏に比べれば随分と空の色は透明だと思う。夏よりも多い水で溶いたような秋冬の空色は、夏の方が湿度があるのになんだか不思議だ。空気中の水分量が問題ではないのだろうか。理科の授業なんて寝てばかりだったから、もしかしたら当たり前かもしれないこともよくわからない。
移動教室の途中、渡り廊下の窓枠に切り取られた空を眺めて、そんなことを考える。
「逃げ出そうか」
そう切り出したのは私だ。
「何処に」
疑問も持たずにそう切り返したのはブン太だ。
「ここから飛び降りて、走って海まで」
「寒ぃだろ何月だと思ってんだよ」
「ですよねー」
なんとなく呆然と立ち尽くす。
ブン太も同じように薄く延びた空を眺めている。
チャイムが鳴り響き、ばたばたと走って移動をするクラスメイトを見送る。外はキンと冷えていて、手先の感覚なんてきっとすぐになくなってしまうほど寒いのだろう。それでも足元に差し込む日差しはあたたかくて、ほんのりと春の陽気のように思える。
「じゃあ鎌倉行こう」
「鎌倉?」
なんでまた、と今度は疑問をぶつけてくる。
「ミルクホールでお茶でもしようぜ」
「じゃあ俺はケーキでも食うかな」
暢気に伸びをしながら廊下をゆったり戻ると本鈴が鳴り始めた。誰も居ない教室に戻り、何食わぬ顔で鞄を手に取る。
「部活までには戻ってこようね」
「これの提出今日までだしな」
ブン太は机の中からくしゃくしゃになった忌まわしい紙を取り出し、ポケットに突っ込んだ。
「ブンちゃんに永久就職とか書いてやろうか」
「そんなん書き直しで居残りだろぃ」
いつまでも夢見がちな子供で居られないのは分かっているし。せめてモラトリアムくらい楽しませてくれ。
世界逃避行
未来も希望も可能性もどれも僕らの手に余る
高2の設定。○○大附属〜みたいな学校って進路希望調査ないですよね…えっと、コースとか…かな…