「俺、好きな人できた」
幼馴染に突然告げられたのは衝撃的な告白だった。



「え?」
私は今まさに目の前の幼馴染が作ったお菓子を口に運ぼうとしていたところで、ただでさえ口をあけて今かと甘いものを待っていた顔が余計にポカンと間抜け面になったのは言うまでもない。

「すきなひと?」
単語を噛み砕くように発音する。
しかし目の前の人物と私の知っている“すきなひと”という言葉がいまいち結びつかず、なかなかその言葉と現状を上手にのみこめない。

「すきなひと、っていうのは恋してる人が使うことを許される言葉なんだよ?」
「んなこと知ってる」
そうか、知っていたのか。
「それじゃあ…つまり、ブン太は誰かに恋、を、しているのか」
「おう」
照れくさそうに泳がせた視線と、綻んだ口元だけで本気で好きなんだと分かってしまう。
ほんの少しの期待にふわりと胸を包まれる。
ああもしかしてこの展開って。


ドキドキがピークに達する前にあっさりと明かされた名前は私の名前ではなかった。


ぐらりと世界が回るような、自分の体がぶれるような、よく分からない感覚を味わいながら、なるべく普通に「へー」と答えた。「誰にも言うなよな」なんて釘を刺すブン太の笑顔は楽しそうで、多分ジャッカルよりも誰よりも早く私に教えてくれたんだろう。ブン太の『いちばん』を私がもらうのは別に珍しいことじゃないけれど、やっぱり毎回すごく嬉しくて。
でもこんな『いちばん』をもらうのは想定外だ。
聞きたくないけどそんな笑顔見せられちゃ私だって笑って応援するしかないじゃない。フォークなんて持っていたんじゃ耳と目をふさぐことだって出来やしない。

「へーあー…へー…うーん…あーそうなんだーあー…へー…」
なにか言わなきゃ。
必死に頭を回転させて、なんとか彼女に関する話題を探すけど見つからない。
へーとかあーとか“かわいいよねー”とか“ブン太好きそうだよねー”とかは浮かぶのにどれも言葉として出てこない。でも今息を吸って一息ついたりしてしまったら多分私は泣いてしまうから、なんとか言葉を出さないと。困ったな。



「ごめんな」

その一言は私のあらゆる思考を一瞬で吹き飛ばした。

「…ごめんなって、何が」
ああ、今のは性格が悪かったかな。ごめんねブン太。思っても言えそうにないけど。
過去にも何人か『丸井の彼女』っていう肩書きを持った女子は居たけれど、その子達よりも『幼馴染』という肩書きを持った私の方をブン太は大事にしてくれていたこと、ちゃんと知ってたのにな。

「何がって…そりゃあ…」
「あたしは別にブン太の家族でもなければ彼女でもないし」
ブン太の言葉を遮るように吐き捨てて、震えそうな声を直すため、小さく酸素を吸い込む。
「誰を好きになろうとどうでもいいしあたしに報告する義務なんてないじゃん」
自分で言った言葉に傷つくだなんて本当に馬鹿だな私は。それと同じくらいブン太の心にもこの言葉は刺さったんだろうな。なんだかすごく性格が悪くて嫌だ。どうしてこんなこと言っちゃうんだろう。


「でもお前、俺のこと好きだったろ?」

「…何を調子に乗ったことを」

やんなっちゃうわ丸井さんってば本当に自信家なんだから、と軽口を叩いてみても視線は泳いでいるし声は震えるし、我ながらやせ我慢がにじみ出ていてとても痛々しい。

「お前のそういう強がりで素直じゃないところは可愛いんだけどな」
なにそれふざけてるの。すきでもないならそんなこと言わないでいいのに。この野郎、本当嫌いだ、こういうところ。

「あたしだってもうブン太の甘すぎるケーキはもう食べたくないし。なんだろう、ああもう…」
「泣くなよ」
「泣いてないしブン太なんて好きじゃない!あたし本当は甘いの苦手なんだからね!これはその涙です、このケーキが甘すぎるから辛いんです」

まあまあ、と頭を撫でるブン太の手があたたかくて、一瞬で視界がぐにゃりと歪む。
これじゃ言われたことを認めたのと同じだ。
悔しいなあ私はいつまでもこの人に敵わない。

「俺の初恋はお前なんだからさ」

そういう問題じゃない。と思いながらも、なんかもういいかなあ。なんてあきれて小さく笑ってしまう。
やっぱり私はそんなブン太が好きだ。
悲しいくらいに望みのない両想いだな。




想いの分け前
「じゃあブン太がふられたら私がつきあってあげてもいいよ」「素直じゃねぇなぁ」「それはありえないとか言わないんだ」「俺だってそこまで嫌な奴じゃねえよ」









ちょっと分かりづらいかな。ここで補足は申し訳ないですが丸井さんは今まで彼女は居たけど特別好きになった人っていうのは特に居なかった、という意味。今回は丸井さん自ら気持ちが動いているから事実上完全に失恋ということ。
うちの丸井さんは初恋と幼馴染担当


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