おとぎ話の王子様のような人に出会って、その人にお姫様のように可愛がられる。
そんな夢のような出来事が、嘘でなく現実に起こっている。
まあなんて素敵なんでしょう。
「あたしもクーちゃんって呼んでもいいですか」
「ほんまはあんま好きやないんやけどな、その呼ばれ方。
せやけど自分やったらええわ。可愛い子には甘いねん、俺。」
甘い顔に甘い声。甘い香りに甘い言葉。
砂糖菓子に頭を突っ込んだように、私の頭は甘い毒に侵されている。
「これ友香里ちゃんに買ってきてんけど今寝てはるから、あとでお兄さんから渡しといてもらえますか」
「ん、ありがとう」
このひとの“ありがとう”はとても優しくて柔らかい響きをしている。
「どういたしまして」
「なまえちゃんは優しい子やね」
頭を撫でる手のひらからは微かに包帯の匂いがする。
保健室の消毒液が入った棚のような、その匂いでさえ甘く鼻孔をくすぐるのだから恋というのは恐ろしい。
「クーちゃん」
「ん?」
「クーさんのがええんやろか」
「なんやそれ」
気にせんでええのに。と小首をかしげて笑う。
その笑顔を見てしまうと、年上だからとかじゃなくて、単純に友香里ちゃんと差別化したかっただけだなんてとても言えない。
親族にまで嫉妬するなんてどうかしてる。
「面白い子やなぁ」
「あんま嬉しくないです」
「面白い子、俺は好きやで」
あやすように2回ぽんぽんと頭を撫でる仕草は完全に妹扱いなのに、触れてもらえることが嬉しくて苦しくなる。
かみ合わない“好き”だと分かっているのに、何度だって私はその声からこぼれる“好き”が聴きたい。
「私やっぱりクーちゃん好き」
「ありがとう」
御伽の世界の毒は甘い
目を閉じて、悲しいはずなのに優しく響く『ありがとう』を噛み締める
乙女ゲとかでヒロインと同級生の妹を持つ兄が攻略対象とかで居ると、妹と同い年の人間恋愛対象に見れないよな、って思ってしまう。