男っていうのはつくづく見る目が無いと思う。
そして結構なロマンチストなんだな、と。
絶対に叶うわけないのにずっと一途に想い続けるなんて不毛だ。



わざとらしく交友棟で泣いてみせる彼女は悔しいくらいに女の子で、それを傍観する私の心をどんどん冷ましていく。
決して目立たないわけではない場所に小さく腰を下ろして、膝に頭を乗せて、高くて可愛いしゃくり声を上げながら『誰か慰めて』と体中から信号を発信する。
わたしが横目でほとんど睨みつけるように彼女を眺めるのは、その彼女の小さくおさまった姿に息を詰まらせ、胸を苦しませながら眺めているもう一人の少年がいるからで。

きっと彼女は気付いていない。
彼の気持ちも、彼が今現在自分を見つめていることも。
ねえ、あなたがそんなにやるせない表情をする必要はないんだよ。
彼女はそんな健気でいい子じゃないんだよ。
どうして見抜けないの。

あなたがそこでそんな風に慰めようか逡巡してることなんて、彼女の中では関係ないんだよ。
どうせ彼女はあとで跡部に慰めてもらうんだから。
それを見て余計悲しくて苦しい想いをするのはあなたなのに。
また、敵わないと、そういって胸を抉られる様な痛みを受けるだけなのに。


そんなに彼女がすきなの。


私だってこんなに日吉が好きなのにね。
日吉が彼女を好きなのと同じか、きっとそれ以上に好きなのにね。
見る目ないよ。
自分のこと好きになってくれる人を好きになればいいのに。
日吉も、もしかしたら彼女も。
それでも彼女の感情が大きく揺さぶられるのは跡部で、
日吉の感情を大きく揺さぶるのも彼女で、
わたしの感情を大きく揺さぶるのも日吉で、
わたしは日吉の感情を少しでも動かすことなんて出来なくて。
きっと日吉も彼女に対してそう思ってるんだろう。
そう勝手に想像して勝手に傷つく、私の恋は自分勝手でひどく歪んでいる。




行かないで行かないで。
そんな女のとこいかないでよ。
目を塞ぎたくても見てしまう。
もしかしたら日吉が彼女の元に歩み寄って、手でも引いて立ち上がらせて抱き寄せたりでもしたらどうしよう。
わたしが必死に願うのは、きっとあなたにとっては不幸で悲しい結末だ。
日吉の手をつかんで、この場から連れ出せれるくらいの勇気と度胸がわたしにあれば。


ああ、日吉が動き出しそう――。


ガタッ。




びくりと日吉の肩が動いて、出掛かっていた足が戻る。
日吉は今“助かった”と思ったんだろうか。
それとも“おしかった”と思ったんだろうか。
おそらく前者だ。
でもこれで日吉は彼女の元には行かないだろう。
悲しいかな同じ立場の私は分かってしまう。

私もこれ以上此処に居たくないし、わざと大きな音を立てて立ち上がった手前立ち去らなきゃならない。
わざとらしくかかとを鳴らして、颯爽と此処から立ち去ってやろうじゃないか。
彼女だけじゃない。私だってこの場に居たんだ。気付け。

最後の抵抗に彼女の前をゆっくりと歩く。
少しでも視界を遮ってやりたいから。
少しでも長く私を視界にとどめてやりたいから。
私の気持ちも日吉の気持ちも知らずに、相も変わらず湧き出るように涙を流す可愛い可愛い先輩の彼女。
どんなに日吉から彼女を遮ったところで、私の目じりに浮かぶ涙になんて日吉は一切気付かないだろう。

ああ蹴っ飛ばしてやりたい。




グレートエスケープ
わたしがどんなに泣き叫んだって、きっとあなたは振り向いてもくれない。




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