唇の上に愛情のキス



「皮膚とかにも感情を記憶出来ればいいのにね」

話しながら蓮二の腕を捕らえ、大きな手のひらに自分のそれを合わせる。

「例えば手に独立した感情と記憶があればさ、」

長くてしなやかな蓮二の指の第一関節に届くか届かないかくらいで、私の指は終わってしまう。蓮二の手のひらにはすっぽりと私の手のひらがおさまった。

「こうやって蓮二の手にふれたときの感情がそのまま手に記憶されるの。きっと脳の記憶より、もっと鮮やかよ。だって感触もきちんと仕舞えるに違いないもの」

さらさらとしていて温かい手のひらは他の誰とも違う蓮二だけの温度で、蓮二だけの皮膚。
付き合って三週間、今日初めてお互いの手のひらを知ったその記憶が、感情と一緒に永遠に手のひらに記憶されるの。
この先私が誰か別の人の手のひらを知って、覚えても、いつでも蓮二の手のひらを思い出せるの。感触とか、どれくらい好きだったかとか、そういうの全部。

「面白い意見だが体全体に独立した感情と記憶装置があれば記憶の量が膨大すぎて処理しきれないだろう」

「そんなのわかっているけど」

ぎゅっと、そのまま指の隙間を埋めていくように指を絡めた。

「私は今現在の私の感情と記憶を絶対に死ぬまで手放したくないと思うの。だって、『恋愛が与えうる最大の幸福は愛する人の手を初めて握ること』、でしょう?」

先日蓮二から借りた本に書かれていた文章の引用に対して、蓮二は小さく笑った。
その余裕が見える行動にむっとした私は、ネクタイを引っ張って蓮二の顔を引き寄せる。まだ届かないからめいっぱい背伸びもして。

「だって私は蓮二との間のことなら、どんな些細なこともこぼすことなく覚えていたいんだもの」

唇が触れ合う瞬間の感情も、この会話も、蓮二の笑顔も心拍数も。目に映る鮮やかな景色も耳に届く全ての音も。

「そしてね、永遠に蓮二の唇を覚えていられるの。素敵でしょう?」

もしかしたら私のこの行動も、彼の脳内では既に計算されたことなのかもしれない、なんて思いながら薄い唇に噛み付いた。




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