わたしの彼氏はかわいくないけどかわいくて、やさしくないけどやさしくて、かっこいいけどかっこわるい。素直じゃなくて無関心を装って、それでもちゃんと見ててくれて、滅多に見せない満面の笑顔が幼くて、だから私は彼がすき。



「ひえぇぇぇもうやだよつかれたよ勉強したくないよ」

「自業自得っすわ電話する暇あるなら英単語の一個でも多く覚えぇや」

ぷちっ。つーつーつー。
今日もクールなひかるさん。泣きついて電話した彼女に対して、あんまりじゃないかしら。


携帯をベッドに放り投げて机に突っ伏す。
ぐしゃりとノートが悲鳴を上げた。ああやっちゃった。でもいいやもう知ったこっちゃねえわ。結局受験なんて最後は運だよ。
そんな言い訳を頭に浮かべてみてもざわついた心臓はおさまらない。半ば義務的にしている勉強は、いつの間にか逃げ場所になった。なんとなく机にかじりついていれば、後ろから迫ってくる受験の二文字から逃げていられる気がした。どんどん心を蝕んでいく恐怖とか重圧から目をそむけていられた。嫌いだった勉強が絶好の逃避場所になるなんて人間はうまくできてる。

それでもやっぱり集中力が途切れればあっという間に不安に足首をつかまれてしまう。そのままずるずると深淵に引きずりこまれる。心がずっと不安定な綱渡りをしているみたいで、簡単なことで左右に振られてしまう。もうやだこんなの辛い。早く終わってひかると遊びたい。デートしたい。

ちらりとベッドの上の携帯電話に視線を移してみても、依然として微動だにしない。

別に甘やかして欲しいわけじゃない。
と思う。
こういうことを言うとひかるはむすっとするけど、ひかるは年下だし。頼りにしてるけど必要以上に甘えたりはしたくない、と思う。

それでも心が折れそうな時に電話して、ぴしゃりと親や教師と同じような言葉を言われちゃうと寂しいものがある。

もうちょっと慰めてくれてもいいのに。
嫌だなあ泣いちゃいそうだ。

つんと鼻の奥が痛む。駄目だこのままじゃ何も出来ない。気分でも入れ替えよう。あったかいココアでも飲もう。とりあえずリビングに向かおう。念のために携帯はポケットに入れて。



「あんた勉強は?」

キッチンに来て、目が合った瞬間にかける言葉がこれって親としてどうなの。
またかよ言葉攻め。これだから親とは顔合わせたくない。
心の中で小さく舌打ちをしながら、とりあえずそんなのをおくびにも出さずに棚からマグカップを取り出す。

「いま休憩」

「あそう、お疲れ様」

なんと事務的なお疲れ様だろうか。お勤めに出るようになったらわたしもこんな事務的なお疲れ様を投げかけるようになってしまうんだろうか。それなら受験勉強ってなんなんだろう。
ああ、心が狭い。普通にお疲れ様って言ってくれただけなのに。ごめんねお母さん。それもこれもひかるのせい。あ、ちがう受験のせい。いや、ちがう、わたしのせい。

はぁ、と小さくため息をつきながらソファに座って適当にテレビのチャンネルをいじる。
やだわ〜ため息なんて。と言う母の言葉は聞こえない振りした。
なかなか興味を引く番組がないなぁと思いながら時計を見たら深夜1時。ああ通りで。この時間に面白い番組なんてほとんどないなぁとごちり、グラビアアイドルがやっている『大阪食べ歩きお手軽スイーツ』みたいな番組でチャンネルを止めた。

ココアに息を吹きかけながら見ていると、学校近郊でおすすめの甘味処を紹介している。

「あーおいしそうこれーいいなー食べたいいいいいぎりぎり」

「受験終わったらにしなさい」

「わかってるよ」

ふてくされているアピールに、わざと音を立ててココアをひとくち飲んだ。
なんでこうも言ってほしくない言葉をくれるんだろう親って。言ってくれるのは親しかいないってことなのか。だとしても言ってほしくないもんは言ってほしくない。あー心が狭い。

きらきらとした効果をつけて緩やかにカメラがスイーツを映す。ああおいしそう。甘いの食べたい。
ひかると一緒に食べに行きたいなあ。へーここ善哉もおいしくて有名なんだ。まさにわたしとひかるの為にあるようなお店じゃないかな。それは言いすぎか。いいな。行きたいな。


とりあえずテレビ画面を写メって保存する。すぐツイートしようかと思ったけど、他の子が勉強してたら、自分だけが勉強に負けてる気がするし嫌なのでやめた。そんなん撮ってどうすんの、という母親の声も聞こえない振りをして無視した。

ひかるにメールしたいな。受験終わったら一緒に行きたいって言ってもいいかな。怒られるかな。それとももう寝ちゃったかな。さっきの電話も眠くて不機嫌だったのかもしれないし。
じっと待ち受け画面を睨みながら考える。とりあえず文面だけでも作ろうかな、送るかどうかは別として。それだけでも気分転換になるし、ちょっとこのあと頑張れる気がする。

よし、打とう。と思った瞬間ぶるぶると携帯が連続で震えて、思わず声を上げて驚いた。え?え?こんな時間に?ひかる?あ。ひかるだ。ものすごい勢いでLINE飛ばしてる。嬉しいちょっと泣きそう。


『受験終わったらこれ一緒に食い行ったるわ』

そっけない文章と、驚くほどにかわいくないスタンプと一緒に送られてきた写真はさっきわたしが食べたいと騒いでいたスイーツで、それだけで単純なわたしは幸せになってしまった。
携帯を握り締めてばたばたと自室に戻ると同時にひかるに電話をした。
どうしようドキドキするそわそわする。うれしい。すき。
繋がる前の音を聞いてるのももどかしいくらいすき。ひかるすきめっちゃすき。

あ。つながった。

「ひかるーすきー!」

「うっさいわ何時やと思っとんねん」

かわいくない!



以心伝心テレパシー
電話だとかわいくないのは照れだよね?







それでも財前は電話が鳴る前に出る。

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