額の上に友情のキス



部屋に入った瞬間、掛け布団の上から制服のままで寝そべっている彼女を見つけてため息をつく。

「人の部屋で寝るなって何度言ったっけー?」

どうせまた家の鍵を忘れて家に入れなかったんだろう。別に知らない仲じゃないし、子供の頃からの長い付き合いだし、家に上げるのは問題ないと思うがなんで俺の部屋に入れるのかね。年頃の男子の部屋に女一人突っ込むかね普通。女かどうかといわれたら確かに疑問だけど。
テニスバッグを適当に放り投げて、両手を挙げて寝息を立てる彼女の頬を軽く手の甲で叩いた。それでも反応が返ってくることはなく、規則正しく胸を起伏させながら幸せそうな顔で眠っている。どこかで見たな、この寝方。と思いながら、恐らくなまえが眠る前に読み散らかしたと思われるベッド周りの漫画本やらを片付ける。
あ、そうだ思い出した。下の弟の寝方と一緒だこれ。

「5歳児と寝相が一緒って」

くつくつと笑いながらゆるくこぶしを作る掌に人差し指を忍ばせてみると、きゅっと握り締めてくる。眠っているのに条件反射で握り返してくるなんてまるで赤ん坊だ。

「起きろコノヤロ。もうすぐメシだぞメシ」

閉じられた目を無理やり開いてみても起きることはなく、されるがまま。ほっぺたを引っ張ると「うう…」と唸りながら眉をひそめた。お?起きるか?と思ったのも一瞬で、次の瞬間、相変わらずすーすーと規則正しい寝息を立て始める。そのまま起きる気配もなく、未だにぎゅうと握られたままの人差し指を見て、思わずふっ、と声を出して笑った。
どう考えてもテニス部の練習をして帰ってきてる俺の方が疲れてるはずなんだけどこいつは本当によく寝るよな。寝るくせにどこも育たないとか病気なんじゃねぇの。
暖房のせいで部屋は随分なまぬるく、汗で額に張り付いたなまえのうぶ毛を梳くと、幸せそうな寝顔全体があらわになる。このやろう幸せそうに小憎たらしい。

鼻をつまむと先ほどと同じように唸りながら苦しそうに顔を顰めた。正直起きてるんじゃないのかと思って無理やり開いた目に息を吹きかけてみたけど何ともない。まだ寝てるのかこいつ。すごいな。
ぎゅうと深くしわを刻んだ眉根を指で伸ばし伸ばしすると、また小さい子みたいに無防備な寝顔に戻る。眉毛をつりあげたりつりさげたりして遊びながら、何の気もなしにそっと額に口付けてみる。それでも起きる気配はない。

「お前本当に寝てんの?」

投げかけた言葉に対しての返事は相変わらず寝息しかなく、恐る恐る聞いたそれは虚しく床に転がった。しんとした部屋で、今しがた自分のした行動を思い返すとじわじわと恥ずかしさがこみ上げて来る。

いや、これは変な意味じゃなくて。
弟たちの寝顔が可愛いなあと思って、ほっぺにチューするのとかと全く同じだ、うん。

自分に納得させるような理由を考えている時点でなんだか悔しい。紛らわすように、さっきキスしたところにデコピンを力いっぱい打ち込むと、ぴくり、と瞼を動かした。しかしそれも一瞬で、「うぅん…」と呻きながら体をよじる。

「あーもういい加減起きろぃ!」

人の気も知らずに眠り続けるなまえの額を思いっきり叩くと、ぺしんと高くいい音が部屋に響く。ほっぺを引っ張ってぐりぐりと揺すると、ようやく痛みで目を覚ましたのか、「なに?なに?」となまえがやっと目を開ける。痛みでうっすらと目に涙を浮かべて。

「痛い!なんかいっぱい痛い!なに?なんなの!」

「うるせーバカ」

「えぇ?なんで?なんで起きてすぐそんな怒られなきゃいけないの?」

「なんでもいいからさっさと指離せバカ」


「ん?え?なにこれ」と不思議そうに、首を傾げると、やっと人差し指を解放される。すっかりとなまえの体温であたためられた人差し指はやけに温かく、なんだか居心地が悪い。

「おでこ赤い…でこピンとかした?」

「さぁなぁ」

「なんでそういうことするのー」

ぶーぶー文句を言いながらおでこをさするなまえを見ながら、本当に寝ていたことに胸をなでおろす。
んなもんこっちが聞きたい。






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