頬の上に厚意のキス



「がっくんほら」
「うおーサンキュー助かったぜ」
頼まれていた炭酸飲料を差し出すと岳人はこれ以上ない笑顔で受け取った。ひとくちで多くを口に含み、ごくりと飲み込む。
「なんだよ」
じっくりと見つめる視線に気付くと怪訝そうに首を傾げ、さきほどよりもいくぶんか少ない二口目を口に含む。
「お礼はチューでいいのよ」
しれっと放り投げたその言葉に、彼はでっかい目を一瞬さらに見開いて、炭酸を噴出した。
「いって…!鼻!いてえええ!」
「なにしてんのよもう…」
「いやだってお前が変な事…!」
意味はないだろうと思いながらも一応背中をさすると、少しましになった岳人がわざとくさい咳払いをひとつして続ける。「で、えー…な、なんだって?」
「チュー」
「だああああ!」
なんだって?とか自分から言ったくせに聴く気がないじゃないか、こいつ。
「私の労力に対する厚意くらい表してくれてもいいじゃない、体で」
「なんかやらしいからその言い方やめろよ」
「ほらチュー」
安いもんでしょ?とからかい半分に言いかけた時、突然両肩をつかまれる。あまりの力の強さに一瞬顔をしかめると、今度はものすごい速度引き寄せられた。同時に少し濡れたやわらかい感触が頬に思い切りぶつかる。一瞬だけふわりと甘い炭酸ジュースの匂いに包まれる。

引き寄せられた時と同様の速度で引き剥がされ、何がなんだかよく分からないまま岳人と向かい合う。
「えーっと…今のは何…かな?」
「何ってその…」
チューだろ…と顔を真っ赤に染めながら岳人は私につむじを向ける。両肩に置かれたままの手は熱く、すこしだけその力が強まったような気がした。
「ほっぺだけど」
「場所の指定をしなかったのはお前だろ!だー!もういい知らねー!俺はやったからなちゃんと!」
高らかにそう宣言をして、足元の鞄を手に取ると岳人は踵を返す。
「ねぇがっくん」
「なんだよ」
「くちって指定してたらしてくれてた?」
一瞬だけ見開いた目で私を睨みつけたかと思うと、何も言わずにすたすたと岳人は歩き出す。
「ねぇねぇがっくん」
小走り気味についていって顔を覗き込んでもぷいっとそらされてしまう。
「ねぇってばー」
「だああ!うるせえうるせえうるせえ!ついてくんな!」

明らかな照れが楽しくて嬉しくて、思わず笑い出しそうになるのをこらえた。
赤い髪の隙間から見える耳が、その髪よりもっと赤いのには気付かないふりをしてあげようか。




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