「お昼ご飯なにー」
「カレー」
昼からカレー?



毛布を羽織ながらキッチンでいそいそと準備をする背中にぴっとりと寄り添う。
洗ったばかりの野菜がシンクの中できらきらしている。

「…私ピーマンきらい」
「馬鹿イロドリだよイロドリ」
それにピーマンじゃなくてパプリカな、とあげあしをとる。
何がどう違うんだ。ただの色のついたピーマンじゃないか。

「カレーに入れるの?サラダとかじゃなくて?」
「どっちも」
「おいしくないよー」
「いーからまかせろって」
「えー」
ブン太のご飯はおいしいし、確かにいつもおまかせだけどいまいち信じられない。
だいたいブン太は『天才的ひらめき』だのなんだので作るから、おいしいんだけどカロリーが信じられない量のものがたまに出てきたりもするし。

「ていうかもう寒いんだけど。そんなビタミンカラーの食べ物今食べる?」
「だからイロドリだって」
「料理は見た目じゃなくて味でしょ」
「食欲をまずそそるのは見た目だろぃ」
ほらそこ邪魔、とジェスチャーをされてブン太から離れる。
「むー…納得できない」
「いーから黙って見てろって」
邪魔だ邪魔だーとまるでペットを追い出すようにとキッチンから出されたので、仕方なくテーブルの上を片付けながら配膳準備をする。
キッチンを振り返ると、研ぎ棒を慣れた手つきで軽やかに動かすブン太が見えた。
しゃらしゃらとステンレスのこすれあう音がする。
のびたブン太の髪を束ねるのは私のヘアゴムで、寒さから私を包む毛布はブン太のもの。ブン太が読み散らかした雑誌を片付けながら、ケンカして私が投げたクッションをソファに直す。
テーブルには太陽の光が射し込んで部屋はぽかぽかしていて、休日に彼氏が家に遊びに来てご飯を作ってくれる。ぼんやりと“しあわせ”の輪郭に触れるようで、空間がゆるやかであたたかい。


「んー天才的」
天才的!という声がキッチンからこぼれたら、それは料理成功という意味。
もっとも天才的以外に聴いたことはないけど。
「いいにおーい!」
「はいはいメシよそってー」

「いただきます」
「はいどうぞ」
いつもどおりのやりとりをして、私の一口をブン太が待つ。
答えなんてわかりきっているような表情をしながら。
「おいしい」
「当然」
得意気な表情をひとつ見せてから自分も食べ始める。
それもいつもどおりなのに、なんだか今日はいつもよりもブン太がかっこよく見えてしまって照れるな。

「コラコラパプリカも食え」
「おいしくないって知ってるもん」
「俺様が作った飯が食えないってぇの?」
「ピーマンはブン太が作ったわけじゃないから問題ない」
「ああ言えばこう言う」
「きらいなものはきらいー」
黄色と赤のピーマンを掬ってブン太のお皿に移そうとすると、その手をつかんでそのまま無理やりにスプーンを私のくちもとまで持ってくる。

「いいから食え」
「やだー!」
「ほら口開けろ」
仕方なくいやいや口を開けると、容赦ない勢いでスプーンが入ってきてむせそうになる。
スプーンが前歯を掠ったから痛い。
「まずいか?」
「…まずくない…」
「だろぃ?」
勝ち誇った笑顔が悔しい。

すっかり食べきって洗い物も終わった頃、テーブルに射し込む陽の面積が減ったことで、だいぶ時間が経ったことに気付く。
あと少しでもう夕方だ。
夜になったらブン太は帰って、この家には私だけで、夜も朝もカレーを食べて、お弁当にもカレーを持って行って、多分帰ってきてもカレーを食べるんだろう。
学校でもブン太には会えるけど、居心地のいいふたりの空間は作れないし。
そして来週には『ひとりで食べるには多すぎるよ』ってブン太に怒って。毎日居ればいいのにな。
そうしたら毎日同じものを食べるの。
そうしたらたぶん、私たちを構成するものも似てくると思うの。
同じものが血となって肉となって栄養になって細胞に染み込んでいって。
それに食事の趣味が合うと何事もうまくいくっていうよね。
そうなると私とブン太の相性はぴったりだと思うし。
ケンカだっていっぱいするけど、こんなに仲良く過ごせるし。


「明日の方がおいしいんだから明日もいればいいのに」

おはよう。おやすみ。いただきます。ごちそうさま。ありがとう。ごめんなさい。
当たり前の全部のあいさつが日常になって君に溶ければ、それはきっととても素敵。

「なにそれプロポーズ?」
「それはきみの受け取り方次第でしょう」




しあわせは食卓から
まんざらじゃないでしょ、君だって。笑い方ひとつで分かるよ。





坂本真綾のパプリカのイメージでした。まんまやないけ
ブン太は大学で栄養士になる勉強をしている、という設定。なんとなく丸井くんは大学でテニスをやめるという選択肢があってもいいかもしれないと思っている自分もいる。


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