切れ長の釣りあがったその目と視線がかち合うと、眼球ごと脳髄を貫かれるような気さえする。可愛げのない釣り目から飛び出す言葉は容易く心臓に風穴を開けるからわたしはこの人が苦手で、もしかしたら嫌いで。だから私は日吉といるととても息苦しくて、心臓がぎゅうと締め付けられて泣きたくなる。



日誌なんてものに意味なんてあるんだろうか。クラスぐるみの交換ノートみたいな内容しか記されてないこれをなぜ居残りまでして書かなきゃいけないのか。

「さっさとしろ」
「すいません」

謝罪の言葉に舌打ちで答えるなんて随分と礼儀正しいなあこの野郎。そんなに部活行きたいならさっさと行けよ。と心の中でごちりながら、不機嫌を隠そうとしないながらもなんだかんだ律儀に待っていてくれるのは、彼なりの分かりづらい優しさなんだろうと思う。
日直なんて面倒極まりない仕事は、だいたい男子は女子におしつけがちだけれど、日直の仕事だってきれいにはんぶんこだった。正直そこまでやるなら全部やれよ、と言いたいくらいにきっちりとはんぶんこ。真面目で優しいのだろうとは思うけど、いかんせん態度が悪いし目つきも悪いし言葉も悪い。そして性格も悪い。たぶん。故に厚意でやっていると思われる行動でもいつも後味が悪い。

ちらりと目の端で日吉を見てみると、長い前髪を切り裂くように鋭い目を光らせ、見下すように床を見つめている。きれいな横顔だなあとしみじみ感心してしまうけれど、右足が小刻みに震えているのは苛立ちをあらわしているに違いない。恐ろしい。黙っていれば本当にきれいだというのに。

「あ?終わったのか?」
「まだ」
「さっさとしろよ」

ちっ、とまた舌打ちをして今度はこめかみに右手を添えて目を閉じる。静かで深い呼吸は眠る前のそれに似ている。
そういえば最近授業中でも日吉はすこし居眠りすることが多い気がする。なんだかんだ日吉はまじめだから今までそんなことなかったのに。

「…疲れてるの?」
「まぁな」
「全国大会いけるんだってね、テニス部」
「ああ」
「日吉レギュラーなったんでしょ」
「ああ」
「ふーん」
「…で、終わったのか?」
「まだ」
「あのなぁ、無駄口叩いてる暇あるならさっさと書いて終わらせろよ」

無駄口ってなんだよ。
二人の間に横たわるなんともいえないとげとげしい空気を和まそうと努めているんじゃないか。疲れてるのかなとか、部活大変なのかなとか、そんなクラスメイトの日常会話程度でさえも私とはしたくないってか。余計なお世話と言われちゃえばそれまでだけど、でもそんなのってちょっとひどいんじゃないの。

日吉の言葉はかちん、というよりぐさっと鋭く刺さる。
やっぱりこの人は性格が悪いんだ。人の気持ちなんてわかんないんだ。やっぱり私はこのひとが苦手だ。
つん、と鼻の奥が痛んだかと思うと視界がぐにゃりと歪んだ。さっきから目の前の日吉の行動や目配せのひとつひとつに緊張しては、ひよしひよしひよしとずっとそればっかり私は考えてるのに。

なにこれ馬鹿みたい。なんでわかってくれないの。わかってよ。

むずむずした感情が次第に苛立ちに変わりだす。自分勝手なのは私もいっしょだ。多分性格が悪いのも私なんだ。
たった数センチ手を伸ばせば私はそのきれいな横顔に触れてしまえる。目を閉じれば日吉の呼吸だってもっと深く耳に届くし、体温だってもっと近くに感じれてしまう。触れているわけでもないのに、日吉に一番近い右手がひりひりしていく。

ねぇねぇ私は日吉といるとすごく怖くて全身が緊張するんだよ。日吉の目線が怖くて酸素が足りなくなる感じなんだよ。すごくぎゅってして苦しいんだよ。どう取り繕えばいいかも分からないくらい頭がまっしろになって自分でも何がなんだかわかんなくなるんだよ。

だからちょっとだけ優しくしてみてよ。そしたら多分色んなことがすっきりして、私はもうちょっとうまく色々やれるよ。





きらいのはんたい
「もういい貸せ」という諦め混じりの苛立った声が私の心臓に再び風穴を開けるのは数秒後









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