一番後ろの窓際といえば完全に当たり席だろう。暇な時は窓の外見ていれば良いし開放的だし楽だし。しかしなんだろうこのとてつもない威圧感。



席替えで窓際最後列を引き当てた時、自分はついていると思った。
これで授業中漫画読んでも携帯いじっても何しても自由だし、心ゆくまで寝れるし気が楽だと思っていたのに、隣の席が風紀委員長でやたら古風で厳格な男ときたら、教師が隣に居るよりも息苦しい。


「こら、かってに俺の教科書に落書きをするな!」
「だってつまんないんだもん」
「授業を真面目に受けていれば詰まらないことなんてないだろう、たるんどるぞみょうじ。学生の本分は勉強だ。学ばなければならんことがまだたくさんあるのだからな」

それがつまらないって言ってるのがわからないのかなあ。
あー面倒くさい。真田に背を向けるように机に突っ伏して小さく舌打ちをした。
そのことに対してまた真田が私を叱るから、私のイライラはたまっていく一方だ。
あーもう教科書さえ忘れなければこんな奴と机くっつけて授業受けなくてもよかったのに。試験前だからっていい子ぶって持って帰ったりするんじゃなかった。

「…真田さーそんなに毎日カッチカチに生きてて楽しい?疲れないの?」
「ふん、くだらんな」
いかに自分が未熟であるかとか学生における学業の重要性などについて高らかに説明をされても、理解も共感もできない話ほどつまらないものはなく、「あーそー」と適当に返して大きなあくびをこぼした。
全然分からん。もはや真田の言語が日本語かどうかもわからん。


「それに」
「んー」

まだ続くのかと反射的に生返事をして真田を見ると、随分と真剣な面持ちをしていて、思わず息を呑んだ。
心臓がどっくん、と一度だけ大きな鼓動をする。

「もうすぐ幸村が戻ってくる。奴は今自分と向き合うという極めて困難な壁に立ち向かっている。幸村の苦労や不安、恐怖は幸村本人にしか分からないだろう。誰も手を貸すことも出来ん、奴自身が自ら乗り越えねばならない、厳しく孤独な戦いだ」
「はぁ…」

何言ってんだこいつは。知ったこっちゃねえよ。と思いながらもなんとなく目がそらせないのは、あまりにもまっすぐに真田が私の目を射抜くからだろうか。

「だから幸村がいつ戻ってきてもいいように、副部長である俺が立海テニス部を護っていかねばならんのだ。あいつがいつ戻って来ても王者立海は王者としてそこに存在していなければならん」

真剣さそのものの表情の奥にも穏やかさが見えるような。私の少ない語彙では表現が難しいその精悍な顔つきは、不思議なことにあのいかめしい真田を美しく見せた。
それは親友に対する敬意が見せるものなのか、はたまた彼の責任感から来るものなのか。

私には絶対に分からないであろう、ふたりが共有する感情と感覚は、素直にうらやましいと感じた。
毎日をただなんとなく生きていて楽しいことがあればいいなーくらいに思っている私には、こんなまっすぐに自分以外のことを考えるなんてできない。

「ふぅん、」と頬杖をつきながら返した言葉は思ったよりも上擦っていて、我ながら何事かと思ってしまった。

板書をもくもくと続ける真田を横目で盗み見ながら、所在無くシャーペンをくるくると回してみる。

もしかしたら私は自分で思っている以上にお調子者かもしれない。

「…真田って正直自分の厳しさを他人に押し付けて、自分の価値観が世界の標準だと思い込んでるような融通のきかない頑固なクソジジイだと思ってたんだけど」
「なんだそれは」
「そうじゃなくてもうちょっと…確かに融通利かなくて頑固でクソジジイかもしれないけど」
「…さっきからお前はケンカを売ってるのか」
「なんかちょっと…」

正直、羨ましいとも感じたしかっこいいとも感じた。
しかしそれ以上の何かがある気がしてとても変な感じがする。
これはもしかしておかしな展開になるのではなかろうか、と気付き始めた感情をなんとか否定で打ち消そうとしてみたもののそれもうまくいかず、否定なんてまるごと飲み込んで真田のことをもっと知りたいとか思ってしまっているし。

だっておかしい。
真田がかっこよく見えるなんて変だ。


今になって、あれだけ苦手だ嫌いだと言ってた真田に対して私がこんな気持ちになるのはやっぱりダメだろうか。

「…私真田のこと誤解してたかも」

ごめん、と小さく呟くと「よくわからんが、」と前置きのようにこぼしたあと、別段変わり映えもないただの台詞とともに浮かべたさりげない笑顔に、私は一瞬で陥落してしまった。




落 下 光 線
だってそんな笑顔は反則でしょう












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