「おしたりくん、」
「ん?何や?みょうじ」
「あの、これ、け…忍足君の消しゴムだよね?」
「これずっと探しててん!何処にあったん?」
「あ、教室掃除のときに転がってるのみつけて…」
「ホンマか!ありがとうみょうじ!お前最高やな!」
「あ、あの、え、っと…」
「あ〜よう返ってきたな俺のスピーディーちゃん!」




こんなやりとりを目にしたのは、たしか今年の5月頭。クラスが変わってそんなに経ってない頃だ。

この頃はみょうじのことをあまりよく知らなくて、ああこの子は謙也のこと好きなんやなあ。でもアイツ鈍いし気付いてへんやろなあ。なんて、そのちぐはぐなやりとりを見て思っていた。
全然話も聞かないで消しゴムのスピーディちゃんとの久々の対面でテンションが上がっちゃった謙也と、全然話聞かれてないのにその謙也を見て嬉しそうに照れながら笑うみょうじを見て、ずいぶん好かれてるなあ謙也、ええなあこいつらが付き合ったら可愛いやろうなあ、なんてことさえ考えていた。

謙也がお気に入りの消しゴムのスピーディーちゃんを無くしたと大騒ぎしたのはクラス替えがあって少ししたくらいだから、みょうじは謙也に消しゴムを渡せずに、しばらくの間持っていたんだろう。話しかけたいけど話しかけられない。そんな状態だったに違いない。
みょうじは謙也に対してそういう想いの寄せ方をしていた。

「お前最高やな!」

そう言ってみょうじの手を取ってぶんぶん振る謙也と、恥ずかしいけど嬉しくてたまらない顔をしているみょうじを見て、可愛いなあと思わず口元が綻んだ。

ああ恋する女子は可愛いんやな、と思ったのは、そういえばみょうじが初めてかもしれない。
こんな子に好かれたらきっと幸せやろな、という想いがぷかりと浮かんでくる程度にはきっと好きだったに違いない。



「てなわけで」
「そんなかんじで」
「俺ら無事付き合うことになってん」
「なりました」

手を繋いで俺に報告に来たちぐはぐなカップルは付き合い始めてもちぐはぐで、でこぼこの身長差や笑顔満面の謙也に比べ真っ赤な顔を俯かせるみょうじもまるであの日のままだった。


「よかったなぁ、みょうじ」
「ありがとう、白石」
にっこりと笑うみょうじはとても幸せそうで、ああホンマによかったなぁ、と思わず父親の様な気持ちで見つめてしまう。

「俺には何もないんかい」
「あー謙也は精々捨てられへんようにな」
「しばくで」

そのまま手を繋いで一緒に帰っていったふたりを窓から見送っていたら、案の定謙也の歩く速度は早くて、手を引かれ気味に小走りでついていくみょうじのたどたどしい走り方に思わず笑った。
好きな人をずっと見ているみょうじを俺は見ていたのだから、俺からみょうじが可愛く見えるのは当然といえば当然だけれど、そういうのを差し引いてもやはりこの子は可愛くて、こんな子に想われている謙也は幸せ者っちゅー話や。



恋 愛 未 満
末永く仲良うやりや












謙也は貧乏くじは引くけどなんだかんだ報われるタイプで、白石は恋愛不器用とか萌える。


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