君を悲しませたくない。
できれば喜ばせたい。
でも君に嘘はつきたくない。



悲しませないために嘘を言うか、
悲しませないために全てを黙すか。
喜ばせたいがために全てを黙すか。


時間だけはいくらもあったけれど、この問題の答えはどれだけ時間をかけてもなかなか見つからなかった。結局俺が彼女に隠し事なんて出来るはずがなくて、どれでもない選択をしたのだけれど。
どの選択をしても泣きながら怒る、めまぐるしい君の表情が見える気がして一人小さく笑った。電源の入っていない携帯電話に視線を落とし、慌てて病室に駆け込んでくる彼女を思い浮かべる。また看護士に叱られる彼女が浮かんできて、やはり笑顔がこぼれる。



明日、手術を受けるよ。

それだけのメールを彼女に送った。
手術をきめたのはもう前のこと。日にちをきめたのはつい先日。

もし失敗したらきっと俺の次に君は悲しむよね。もし成功したら俺以上に喜んでくれるよね。もし君に内緒で手術を受けたら、どんな結果でも泣きながら叱るだろう。
悲しみにだけ消極的なところがとても素直で愛しい。
薬があるとしたらきっと彼女の存在そのもののような気がする。だって君を考えるだけで俺は癒されるんだから。


バタバタと廊下を走る音を追いかけるように看護士の声が扉越しに響いた。「すいません!」と大声で謝る声は聞き間違えるはずもない、鼓膜に染み付いた声で。
ふわりと綻ぶ俺の唇は俺と違ってとても素直だ。
君が病室の扉を開けるのを、小さな子供みたいに楽しみに待っている。



君は俺を叱るだろう
でも君がなんて俺を叱るかが楽しみだったなんて言ったら君は笑って許してくれるだろうか










叱るという行動は愛にあふれていると思う
君の部分ぜんぶ名前でもよかったけどなんかなんとなく君。幸村の『きみ』がとても好き


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