いちころ


朝起きてからじゃきじゃきと短くした前髪をちらちらと指でもてあそぶ。
きっと気づかないなんて事はきっと彼に限ってはないのだけれど。
それはうぬぼれなんかじゃなく彼の生来の気質から思う。

「おっはよーん」
「朝から元気ね」
とりあえずの挨拶を何気なく済ませて、少し目をそらしながら前髪をいじった。

「あれ?前髪切ったの?」
「…うん」
「カワイイよ、似合ってる」
へらへらとにっこりの中間のような中途半端な笑顔は決して彼をイケメンになんて見せたりはしないのに、わたしはその笑顔にきゅうっと胸が苦しくなる。
千石にかわいいといわれるとわたしは安心する。
誰にでも言える、褒めるべきところのない場合の賛辞であったとしても。
「…ほんとに?」
「うん、それくらいの長さが一番カワイイよ」
その「かわいい」に特別な意味なんてないとしても。
信じられるものでないとしても。

「…ありがとう」
こんなささいな変化にも気づいてくれるから、わたしはこんな短い会話のために、ちょくちょく髪なんて切ってしまうんだ。

百万人がぶさいくだと言っても千石が「かわいい」と言えばわたしは安心するし、わたしの心なんていちころ。


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