遠まわしな恋の伝え方


わたしはどうしても本が読めない。
読みたい気持ちはあるのに頭がついていかない。別に眠くもないのに眠くなる。それが純文学であった場合、開いてページの半分も読まないうちに寝てしまう。とても心地良い眠りに誘ってくれるから、そういう意味では純文学が好きと言えそうだな、と思った。

「言えるわけないだろう」
「ですよね」
文庫本から目を話すことなく、柳が言った。
夏目漱石の草枕だ。これもいつか読もうと思って買ったことがある。一応8ページ目にしおりが挟まっているが、出だしの1行も読んだ記憶がない。
柳は異常なまでの速読で有名だけど、夏目漱石だけはとてもゆっくりと読むのを私は知っている。句読点ひとつこぼすことなく暗記をしていそうなこの男が精読するほど好きな作家のひとり。

「わたしもね、夏目漱石好きなんだよ」
「意味が違うだろう、お前の場合」
「千円札が一番好きで集めてるのにだってちゃんと理由があるんだよ。たぶんね、柳でもわからないと思うの」

だって好きな人の好きなものって、なんか集めたくなるじゃない。

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