幸村


たとえば、と幸村がこぼした。
わたしは首をかしげながら、横にいる幸村を見る。

空からするどい日差しと蝉の声が降り注ぐ。夏の暑い日だった。
わたしと幸村は、渡り廊下に行儀悪く座り込んで、じっとりとした夏の日陰の涼しさを堪能していた。
遠くでサッカー部がボールを蹴る音がする。陸上部のランニングの掛け声が聞こえる。自主練習している吹奏楽部員が奏でるまだらなメロディが聞こえる。
時折わたしと幸村のあいだを、かびくさい風が吹き抜ける。夏休みの学校では一番すずしい場所だ。

「たとえば、何よ」
あまりにも話がすすまないので、たずねてみる。

「やっぱり、やめておくよ」
「なにそれ気持ち悪い」
「また今度、ね」
「はぁ?」
釈然としないなぁ。とこぼすと幸村はくすりと笑って立ち去った。
なんだっていうんだろう。
あれ?そもそもわたしと幸村って、別にそんな仲よくないなぁ。もちろん、悪くはないけど。
でも案外。うん、意外と・・・あれ?でも夏休みって―――


歯を磨きながら夢の幸村とわたしを思い出す。
あんがい幸村とわたしって悪くないな。そんなことを考えながら。
洗濯から返ってきたばかりの真っ白の制服に袖を通して、磨きたてのローファーのかかとを鳴らす。
心なしか体が軽い。ただの新学期なのに、ふしぎにわくわくしている。

学校で会ったら幸村に聞いてみよう。
もちろん、夢の出来事だから知るわけないんだけど。

たとえば、だけどね。わたしと幸村が付きあったら、あんがい楽しいと思うのよ。



2014/08/29 01:22 tennis


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -