Daisy Angel. 【so then…?】








 レターズフェス後日



 よく晴れた日の夕刻 雲が流れる
アンゼはいつものように蝋燭の灯りを立てながら、そこにいた。


 また、一人の老婆が花を持ってやってくる。
 毎日 同じ十字の墓に花を生けにやってきていた。



 アンゼはその老婆を眺めた。
 いつも、花を置いて祈りを捧げたらすぐに帰っていく老婆である。
 会話したのはほんの数度。レターズフェスの前のあの雨の日が、何度目だったろうか
 祈りを捧げる丸い背中を眺める内、アンゼはあることに気づいた。
 老婆はずっと、何かを呟いている。


 アンゼは老婆に歩み寄った。
 手の届く距離までやってくると、老婆のそばにそっと膝を着き、その横顔を覗き込む

 「………お婆様、あなたはなぜ、毎日ここに来るのですか?」

 すると老婆はぶつぶつ呟いていたのを止め、アンゼを見上げた。
 垂れ下がっている瞼は、開眼の有無すら確認できない。
 アンゼは老婆の返事を辛抱強く待つ。
 やがて考え至り結論を見つけた老婆は、再び十字の墓石を見上げて答えた


 「………なんで、でしょうねぇ…。思い出せなくて。
  思い出せないのですが、日課ですからねぇ…。
  いつから、ここにくる理由を、忘れてしまったんでしょうか…」




 痴呆が


 いつから始まっていたのかは、アンゼは気づかなかった。
 小さい頃からずっと通っていたこの老婆と話さないことが、普通になっていたから


 目の前の十字が誰なのかもわからない
 けれど、足繁く通っていたその姿から、大事な人だとは、悟っていた
 それを忘れてしまうなど、あまりにも、悲しい


 「……シスター、……あなたはなぜ、……毎日ここにいるのですか?」
 
 

蝋燭が照らす表情は影を落とし惑いを移すように揺れたけれど
やがて、アンゼは静かに瞼を閉じて、穏やかに微笑んだ








「……愛を紡ぐために、此処におります。」




 暖かな橙の夕陽が、二人を照らしていた。







fin.
 





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