*** 「と、いうことだよ。俺の魔法なんてのは、対して役にもたたなかった。だが結果自体は君が求めたものだったんだ。謝るべきではないがね」 死者が審判を待つ間を過ごすといわれる陰府(よみ)にて。マルスは死者の椅子に腰掛けるベルホルトに報告する。ベルホルトは組んだ膝に手のひらを重ね、穏やかな表情で聞いていた。 「手段は問わないと言ったはずです。貴方が魔法使いでも天使様でも構うところではありませんよ」 「全くだ。俺は君が求める結果を提供した。故に君をこの椅子からどかさなければならない。父に悟られる前に事を済まさねばならないのだから、全く最後の最後まで手が掛かる兄妹だものだね」 「ふふ、妹も逞しく育ったみたいで嬉しい限りです」 ベルホルトは椅子から腰を上げ、マルスの手を取った。白き羽に包まれて死者の隊列から外れていく。審判の時を待たずにこの場を離れていき、白き渦へと導かれていった。 「そもそも君が審判を受けるとは思わなかった。主を信じるものは無条件で天に召される筈だからだ。“地獄行きと引き換えに妹を幸せにしてほしい”と俺に願い出るほど利他的な君が、なぜ審判を受ける羽目になったのかね?」 真っ白な渦の先に暗闇が広がる。地獄の門に近づきながら、ベルホルトは唇をゆがませて笑った。 「死んでまで、利己的だからでしょう。待ち人がそこにいるのなら、私はコキュートスにすら嬉々として出くのです」 『そこに悪魔(アナタ)がいるのなら』 Fin. [mokuji] [しおりを挟む] |