シンデレラ!3






 







***


「な、なんと・・・・・・! なんと美味s、美しい・・・・・・!あのお方こそ我がプリンセスにふさわしい!!」

 舞踏会の玉座にて、王子セツ・シレンツィオは義母ウリセスを見つけて身を乗り出していました。王子がウリセスに向ける視線はまるで肉を見つけた虎そのものにも見えました。
「王子、よくご覧ください。あれはただの牛ですよ」
「え?あ、本当だ・・・・・・私としたことが、つい・・・・・・肉を見ると湧き上がる衝動が抑えられないのです・・・・・・」

 側近であるキューレ(ゲスト出演)にいさめられ、冷静を取り戻した王子はしおらしく玉座に戻ります。
「王子、プリンセス選びは慎重にお願い致します。一国を担う妃になるのですから」
「分かっています! だから最もふさわしい女性を選ぼうとして私自らここに立っているのではないですか!」
「自ら率先して牛を選ぶとはどういう了見でしょうか」
「う・・・・・・」 
 痛いところを突かれてセツ王子は言葉を詰まらせました。それ以上何を言い返すことも出来なかったのか、ふてくされてそっぽを向きます。キューレは露骨にため息をつきました。
「大体からして、ましな女性はいないのかしらね、このリベアム国には」
 キューレがぐるっと会場を見渡すと、料理を掻き込んでいるピノや、裸が服着たカルロッテが目に映ります。あれよりマシな女性はいないのかとさらに探すと、ウリセスが見つかりました。
「なんですか、この0と1とモブしかない舞踏会は。アザラシでもつれてきましょうか?」
「アザラシ・・・・・・」
「今、美味しそうだと思っていませんか?」
「いいえ」
 セツ王子が頭の上にアザラシステーキを思い浮かべていることがありありと分かるものの、これ以上堂々巡りを続けることの億劫さに負けてキューレは黙り込みました。

 そこに、ゴゴゴ、と謎の音が聞こえてきました。
 何事かと思い皆々が顔を上げ、扉に視線を向けた瞬間、モシナが扉を蹴破り人力車ごと乗り込んできました。

「てやんでえええええええい!!!」

 勢いを殺すことなくモシナは人力車を振りました。すると遠心力が掛かったファルルが荷台から放り出され、舞踏会の上空に放り出されてしまいました。
「ひゃあああああ!?!?」
「あ、危ない!」
 セツ王子は駆け出し、キレイに放物線を書いて落ちてくるファルルを受け止めました。
「・・・?」

 ファルルの体を包んだのは、フロアの固い衝撃ではなく、柔らかな感触とふわりと甘い香り。恐る恐る顔を上げると、真っ白な緩い髪の隙間で揺れる青い瞳を見つけることができました。
(ふ、ふわ・・・・・・! これが、王子様・・・・・・?)
 優しそうな瞼がふわりと笑み、ゆっくりとファルルを下ろします。
「お怪我はありませんか? お嬢さん」
「は、はい!」
 ぶわわと膨れ上がってしまう鳥羽の耳を押さえ、乱れたドレスをそそくさと直し、改めて王子の前で背筋を伸ばしました。こんなチャンスは滅多にありません。いじらしくそこに立ちながら、首を傾げる王子に向かって尋ねました。

「ふぁ、ふぁるると一緒におどってください!」



**



舞踏会会場で人力車を振り回した罪で強制退去をさせられたモシナが不満のあまり暴れ始めた為、ウリセスやピノたち3人がなだめ役としてかり出されました。そんな状況でなんとか正体がばれずに王子と二人きりになれたファルルは、王子との時間を楽しむことができて喜びも一入でした。

「すごく、楽しいです・・・・・・」
 楽団の演奏が途切れたので、二人は会場の熱気から逃れるように庭園を散歩することにしました。ファルルは先ほどまでの余韻に浸り夢見心地。隣を歩いているセツ王子が小さく笑いました。
「私も嬉しいです。ファルルさんはどちらからいらしたのですか?」
「ふぁ、ファルルはリベアム国のクリオール領から・・・・・・」
「あの辺り一帯は長閑で良いですね・・・・・・私も城を抜け出すことが出来たなら、ぜひ住んでみたいと思っていました」
「え?」
 思わぬ一言にファルルは首を傾げます。セツ王子は浮かない表情を無理矢理笑みの形に作りながら話し始めました。
「私は今宵、プリンセスを選ばなければなりません。父も母も私の煮え切らない態度に耐えかねてこのような舞踏会を開き、無理矢理にも決着をつけさせようとしているのです。しかし私は、形だけの婚約などしたくない。きちんと愛せる方と出会いたいのです・・・・・・」
「王子・・・・・・」
 それはセツ王子の本音だったに違いありませんでした。その言葉を聞いて、これまでの時間で浮かれているのはファルル1人だけ、セツ王子にとっては苦痛なだけの時間だったのだとファルルは悟りました。そして急に胸が苦しくなりました。
「今回の舞踏会も、私の地位と名誉に目が眩んだ者たちばかりです・・・・・・。誰も私自身を愛そうとしてくれない・・・・・・」
 ファルルの脳裏には姉たちが思い浮かびました。そして自分も王子とう肩書きだけに憧れを頂いていたのだと気づき。きゅ、と唇を噛みセツ王子と同じように俯きます。

(ファルルも、王子にひどいことをしてしまったんだ・・・・・・)

 きゅううと胸が痛くなり、ファルルは歩みを止めます。セツ王子も後から歩みを止め、振り返りました。

「王子ごめんなさい・・・・・・ファルルはもう帰ります。舞踏会に戻れば、きっと王子のことを愛してくれる女の人がいると思います、・・・・・・ファルルなんかよりもっと王子のこと愛してくれる人に、出会ってください」
「・・・・・・え?」
「好きでもない人と一緒にいるの、とても辛いもの。だから王子にとってこれからの人生を決める大切な時間をこれ以上貰う訳にはいかないわ」
 ファルルの脳裏にマルスの言葉が蘇ります。しかし聞こえないふりをして頭を振るい、絞り出すようにセツ王子に告げました。
「ファルルさん・・・・・・」
「王子はとても優しい人だと思うの、見ず知らずのファルルを抱き留めてくれたもの。優しい人は幸せにならないと駄目なのよ」
 ファルルはドレスをつかみながらなんとか声が震えるのを我慢しました。
(なんだか泣きそう・・・・・・)
 一生懸命笑顔を作り、王子にそれだけ告げると、ファルルは駆け出しました。

「ま、待ってください!」
 セツ王子は手を伸ばし、ファルルを追いかけました。その声に悲痛の色が滲んでいるようで、ファルルは思わず振り返ってしまいました。
そのとき、

ガク!! と体が沈みました。
前方に階段があることに気づかなかったのです。


「ふ、ふわわわわ――――――――――――――!!!」


ファルルは白○建○もびっくりなローリングをしながら階段の下まで落ちていきました。
「ファルルさ―――――――ん!!!」
あまりの落ちっぷりにセツ王子の心にトラウマとして残りました。そして勢いだけの追走を阻むうちに、幸か不幸かむなしくも0時を告げる鐘が鳴り響いたのです。下段まで転がったところで植木にタイブしたファルルは運良く潜んでいたモシナの人力車に着地しました。

「おうファルル遅かったじゃねぇか!! こちとらあの3匹相手にどんだけ逃げまくったとおもってやがる!! 鐘が鳴っちまったからとりあえずトンズラするぞ!!」

 人力車を引いてモシナが走り始めます。ファルルは我慢が出来ずにモシナに泣き言を漏らしそうになりましたが、階段を降りてくる王子の声が近づいてきた為、何も言えませんでした。人力車にしがみつきながら、お城を後にすることしかできなかったのです。

「ファルルさん・・・・・・!」
 白○健○ローリングにびびった為にセツ王子はファルルを捕まえることが出来ませんでした。ただ1つ、ファルルが落としていったと思われるガラスの靴を除いては。
「これは、ファルルさんの靴・・・・・・?」
 王子はガラスの靴を大事に抱え、遠のく人力車を見送りました。なぜこんなに胸を締め付けられるのか、このときは答えを出すことができませんでした。
 








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