<8月15日の扉>






 





『 美女 と 野獣 』

とある国の山奥に、王様が住んでいました
数人の家臣と、日替わりでやってくる美しい貴婦人に囲まれて、不自由なく暮らしていました

ある日 王様は一匹の猫に逢いました。
薔薇の棘で怪我をした真っ白な猫。
王様は猫に治療を施し、薔薇の棘を削って猫に渡してやりました。

次の日も、次の日も、猫は王様のところにやってきました。
なんとその猫は、魔女の化身だったのです。
魔女は王様に恋をして、毎夜毎夜、彼の所に行くようになったのです。
他の女が隣に居ると、酷く嫉妬しました。

魔女は愛し、愛されることで美しい人間の姿を保ち、
憎み、妬む程に醜い姿に変わる呪いを受けていました
その姿を見るや、人は恐ろしがり、また羨望しました。

魔女は王様を愛していました
しかし王様にとって魔女は、良き友人でしかなく、魔女の想いに気付くことが出来なかったのです
それはほんの些細なすれ違いの連鎖によるもので、何よりももどかしい2人でした。
魔女は王様に愛されているとずっと勘違いをしていました。滑稽な事に、その思い込みが魔女の美しさを保っていたのです。

そんなある日、街で一番美しい娘の話題が上がりました。
ベルという少女の父親が、森に迷い込んだのです
当初よりベルのことが嫌いであった魔女は、王様とベルが接点を持つことを厭いました
しかし、王様はベルの父親を保護したのです。
それを知った途端、魔女は王様を問い詰めました。口喧嘩を散々する中で、魔女は王様が自分を愛していない事に気付いてしまったのです。

怒り狂った魔女は王様に呪いを掛けました。
それは自分と同じ様に、王様を醜い姿に変えてしまうものでした。

王様はみるみるうちに野獣の姿に変わります。
魔女は泣き乍ら高笑い、野獣に向って薔薇を投げつけました。
それは出会ったあの日に「王様」から貰った薔薇でした

「その薔薇の花びらが朽ちる迄に、真実の愛を見つけなければ、貴方は死んでしまうわ、!」

野獣の目に映ったのは、舞い散る花びらと高笑う醜い女
叫び出そうな絶望の渕に立ち乍ら、暗闇の中に落ちて行ったのでした





薔薇が散るリミットは、8月15日






野獣は名も知らぬ國の古城で1人過ごしました

遊びに来る一羽の鳥に本を読み、稀にやってくる客人を追い払い過ごす日々
野獣は自分がなぜ野獣なのか、覚えていませんでした。
1人悩み、ジレンマを抱える日々の中、
とある星降る夜に、この名も知らぬ國でベルと出逢いました


野獣は逢った事も無い筈のベルにとても惹かれました
引力に引き付けられる様に人ごみの中からベルを抱き上げ、そうして2人は出逢ったのです。





物語に沿っていれば




野獣とベルは結ばれて、野獣の呪いは解ける筈でした
しかしベルは青髭を愛していた為、野獣と恋に落ちることはありませんでした。
野獣はベルの恋心を知り、色々なことを憶います。
祭りも終盤に差し掛かる中、野獣はベルの耳元で何ごとかを囁いた後、ベルを青髭の下に送り出してしまいました。




野獣はベルの幸せを願う事にしました。
去り行くベルの背中を眺めながら、何の脈絡もなく、憶いました


自分はあの薔薇が散り行く頃に、死ぬのだと




そして来る、8月15日


野獣は扉の前で待ちました。
この街に着てから
心を、自分を、存在を、扉一枚閉ざし隠して過ごして来た野獣は、
死の迎えは、 扉の向こうからやってくると、知っていたのです













扉が閉まる大きな音は、夏の夜気に波紋を広げて消えて行く。
デゥケーンはあまりに唐突な出来事に瞠目した。
キヴィットが何時から居たのか解らない。全く気付くことが出来なくて、背後から駆け寄って扉を閉めるという横暴を止めることなど出来なかった
振り返ったキヴィットの言葉に、何と答えたら良いのか解らない。既に涙腺の蛇口を捻り切ったキヴィットはわんわん泣いて、扉から離れるとデゥケーンの腰にしがみついた。

「あのヒトと行ったら駄目だ!!やだ!!でっかいの死んじゃう!!」

「――――――っ、」

「居なく成っちゃうのはいやだああぁ…っ 」

彼女にも見えていたのだろうか、あのおぞましい姿が。へばりついて来る背中に腕を回して撫でてやると、服の上からでも解る程に震えていた。嗚咽が酷く、何をぼやいているか拾い上げるのも一苦労だった。ぐりぐりと固い腹に顔を埋めてくる少女をどうにも出来ない。自分自身の死期を前にして、正しい判断が出来る程冷静では居られない。デゥケーンは少女の頭を撫でることしか出来なかった。






扉の向こうが沈黙している。
先ほどの様にノックは聴こえない。
デゥケーンは泣き止まない少女を連れて、何時も本を読んでいる時と同じ様にソファに腰を掛けた。キヴィットは未だ未だ涙が涸れない様で、仕舞いには抱っこを強請った。腕の中に抱えてやりながら、また頭を撫で続けることにした。こんなのは父親の役目だろうに、ミスマッチの酷さに苦笑する。
少しばかり時間を貰えたんだろうか?ほんの数分の出来事だった様にも憶うけれど、身体はとても疲れていた。時計の音を見つけるよりも大きな声で泣いているキヴィットの声量に負けて、もう迎えを気にする事は止めた。
あの魔女の事だから、夜中に枕元にでも立って、この頚を勝手に持って行くだろう。其れ迄にこの少女を泣き止ませて、家に返さなければならない。そして告げなければならないのだ、「此処にはもう来る事がないように」と。

何の前ぶれも無くワープした世界から、自分が消えてしまうとなると、どうなるのだろう。
消しゴムで決してしまう様に、皆の記憶から無くなってしまうのだろうか。
ベルにとっては、その方が良いかもしれない。ノットもキヴィットも、保護者がいる分、問題はないだろう。この城はどうなるのだろう。エメロが勝手に使い始めるだろうか。
どれも取るに足らない事だと憶った。
そのくらい些細な足跡しか、この世界に残していないのだと悟ると、無性に虚しくもなってきた。それと同時に、この虚しさは何なのだろうとも、考える。


もしもまだ生きることが許されるなら、せめて見届けたい
あの少女は、この少女は、自分が憶う通り幸せになってくれるのだろうか




キヴィットを抱いた侭、デゥケーンはテラスに向った。
果てなく続く真っ黒な空。少女をこの空に帰すのは心もとないが、家路まで送り届ける余裕もないだろう。

「……キヴィット。今日はもう、仕舞いだ。」

いつも通りの低い声で、デゥケーンは言い聞かせた。だがキヴィットは離れようとしない。髪飾りの一房を手に取り、断固として離れようとしなかった。そうまでされると、強く出ることが出来ない。






――――――さわりと、  冷たい風が吹き抜けた。




徐々に空が明るく変わって行く。
いつの間にか、宵が明ける程に時間が経っていた。
旭の一閃が瞼に届き、その眩しさに思わず掌で影を作った。額に添えた手甲を下ろし、視線を反らす

ふと、…自分の掌を見下ろした。
其れは人間が持つもので、綺麗な皮膚を纏い骨張って長い、自分の掌





デゥケーンはその掌を持上げて、自分の頬を撫でた。其れはあの獣の輪郭ではなかった。
脚も、髪も、――――――
時間はとうに、過ぎている筈なのに。



「――――これは、…」



声も、







まるで、天地がひっくり返った様だ
未だに信じられない

此れはどういうことだ?



だけれど、もしも、 
この命が紡がれたのなら、




私は、―――――― 

「………う?」


キヴィットは自分を抱く男が微動だにしない事に気付いた。不思議そうに顔を上げ、男の表情を覗こうとする。

「…………どうした、でっかいの……。 …………?もふもふじゃないぞ……?」

表情を覗こうとすると、大きな掌が頭を撫でた。
その掌は飾りがついた肩に押さえつけるように力を込めて来る。キヴィットは強く抱きしめられているのが解り、瞬いた。
小さな身体は男の腕の中にすっぽりと嵌り、やがて消え入る様な小さな声を聴いた
彼がなぜそんな縋り付く様な声でそう呟いたのか、キヴィットはまだ解らなかった










『もしも、この命が紡がれるなら、
 誰かを愛する事をお許し下さい










first end.
thank u for pif*
(2014.08.11 Monday)




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