しゃらしゃらと鳴る重みのある棒を肩に軽く担ぎ、纏う黒の衣服は坊さんが着るソレとは似て異なり、バッチやら釦やらチャラチャラしたものが付いている。首に軽く巻き付けた薄手の真っ赤なマフラーはドスドスと勢いつけて歩く度にひらりひらりと漂った。
しゃらんどすひらり。不協和音が冷たい空気を震わせる。
どすどすどすどす…
「あれ、金造。何処行くん?」
「八恵んとこ。」
どすどすどすどす…
「あないに急いで…」
「柔造、金造見いひんかったか?」
「お父、金造ならそこに…あれま、もういいひん。」
「あのドアホまた経の修行サボりおって…!!」
「八恵んとこ行く言うてたで。」
京都下鴨物語
「あぁ金ちゃん!いらっしゃい!」
「親父さん、茶ぁくれ。」
「はいはい。八恵に持ってかせるさかい上がっていき!」
京都の老舗和菓子屋の福屋の暖簾をくぐれば、店主の親父さんがいつもの笑顔で迎えてくれた。いつもの様に色鮮やかな和菓子達が並べられた横を通りすぎて、裏方に入るとさらに奥へと進んでいく。ブーツを脱いで上がるそこは店ではなく店主が住んでいる自宅に続いている。
お気に入りの縁側まで行くと胡座をかいて座った。
「金ちゃん、またお稽古サボったん?」
「稽古ちゃうわ。修行や修行!!」
「あんまり八百造さん困らせたらあかんよ?」
ことりと静かに茶と菓子を置きながら話す店主の一人娘の八恵。
手を伸ばしてきて俺の髪に触れた。
「半年も経つと見慣れるねぇ。」
ふわりと微笑んで撫でられる金色の髪。嫌そうな顔をしてみるが、止める気はないらしい。いつまでも子供扱いするこいつは、半年程前、俺が正十字学園を卒業した今でも変わらない。2歳の差は埋められずとも、俺はもう子供ではない…はず。
「止めい!!俺はもう立派な祓魔師なんやぞ!!」
「そうやったなぁ、堪忍ね。」
そういってちゃっかり自分の分も用意していた茶を啜る八恵は、離れていた3年の間でまた大人の女に近づいていた。いつか柔兄みたいな野郎が今みたいにこいつの隣に並んで茶を啜るんだろうか。それとも柔兄本人か。
「今年は雪降るんやろか。雪降ったらここの縁側も綺麗やからなぁ。ねぇ金ちゃん?」
前にこの縁側が私のお気に入りの場所なのだと話していたのはいつのことだったろう。
「…おん。」
11月ももう終わる。19歳になったばかりの冬の日のこと。